2024年10月に統合を控えた東京医科歯科大学と東京工業大学は4月10日、医科歯科大で「東京医科歯科大学・東京工業大学マッチングファンド研究成果発表・研究交流会」を実施しました。本イベントには学内外の研究者、多数の企業関係者、メディア、自治体の関係者など314人が参加しました。
Science Tokyo設立に向け研究面での連携が進む
「医歯学と理工学の緊密な融合により、社会へのさらなる貢献を目指す」という思いのもと東京科学大学(Science Tokyo)として新たなスタートを切る医科歯科大と東工大では、研究面でもいっそうの連携強化が進んでいます。そのための主な取り組みの1つが、両大学によるボトムアップ型共同研究を推進するため、異分野融合の研究課題に関する研究費を支援する「東京医科歯科大学・東京工業大学マッチングファンド」です。本イベントでは、このマッチングファンドをはじめとし、両大学が2022年から2023年にかけて募集した研究支援ファンドに採択された37組の研究チームが、革新的な異分野融合研究の内容や成果を報告し、さまざまな来場者との研究交流を行いました。
医科歯科大の田中雄二郎学長は開会のあいさつとして「私と東工大の益一哉学長は常々『大学統合にあたってのキーポイントの1つは、コンバージェンス・サイエンス、異分野融合だ』と語り合っています。本日はその具体的な姿を皆さんと共有し、今後の活動にもつなげていけるような機会にできればと考えています」と、イベントにかける思いを語りました。
口頭発表:多岐にわたる医工連携の研究事例を発表
イベントの前半では、マッチングファンドの2023年第1回公募で採択された研究チーム23組が、口頭発表を行いました。両大学の共同研究チームの研究者は順番に登壇し、理工学とヘルスケアの垣根を超えた共同研究について概要を説明しました。
「コロナ禍で多くの患者さんを受け入れた医科歯科大では、ECMO(体外式膜型人工肺装置)などのデバイスにできる血栓の問題に直面しました。この経験から、東工大の土方亘准教授(工学院 機械系)と共同で遠心ポンプが生み出す拍動流を用いた血栓予防の研究を進めてきました。本ファンドを受けて人工肺内の血栓抑制効果の検証と実用化に向けた研究を実施し、4回の動物実験などを経て、その効果が明らかになりました」(医科歯科大 大学院医歯学総合研究科 心臓血管外科学分野 藤原立樹講師)
このように医工連携の代表的なアプローチによる「ヘルスケアの場面で存在する課題を、理工学を応用することで解決していくという研究」(治療)に加え、工学と医学の最先端を掛け合わせることで新たな価値を生み出す「脳内へ安全かつ高効率に薬を運べるナノマシンを使って、タンパク質の設計図として多様な疾患への応用が期待されるmRNAを脳内に届ける研究」(投薬)など、口頭発表ではさまざまなアプローチの研究が次々と紹介されました。
また想定される各研究の活用シーンも、「治療」や「投薬」という場面以外に、眼球計測を用いてメンタルヘルスの状態を客観的に評価するといった「アセスメント」に関する研究や、口腔がんの腫瘍が硬化するメカニズムを解明する「歯学」に関した研究、幅広い場面での応用が期待できるウイルス検知や細胞死といった「基盤技術」に関わる研究、また医療現場におけるリスク認知の重要なポイントを視線解析によって明らかにし、「危険予知」や「教育」に生かす研究など、多岐にわたりました。
口頭発表後、東工大の渡辺治理事・副学長(研究構想担当)があいさつに立ち「このマッチングファンドは若手を中心とした両大学の研究者たちからの熱い要望を受けて組成されたもので、本日の発表でも医療現場のニーズを起点とした研究や、理工学のシーズを起点とした“工医連携”とも呼ぶべき研究など、数多くの医工連携のビビッドな事例に触れ、異文化を融合していく統合に向けた熱い息吹を感じることができました。今後もこうした活動をさらに継続していきますので、産学連携などの可能性なども含め、ぜひ関係各位のご支援、ご協力をお願いできましたら幸いです」と述べました。
ポスター発表:学内外の研究者や企業関係者らとの研究交流
口頭発表の後は、ポスター発表と懇親会を行いました。場内には口頭発表を行った23組に加え、マッチングファンドの2023年第2回で採択された6組と異分野融合研究助成2022に採択された8組を合わせた計37組の研究要点をまとめたポスターが貼られ、各研究の代表者が来場者に説明を行いました。
会場では和やかな雰囲気の中、異分野融合研究に関心を持つ学内外の研究者や、ヘルスケア、電機、化学、食品、情報通信など産学連携の可能性を模索する幅広い業界の企業約40社、研究支援先を検討する学術振興機関や行政機関の担当者、メディア関係者らが研究代表者と熱心に議論を交わしました。
本イベントで「動線・環境・生体計測データの時空間解析に基づく集中治療室における新たな『医療の質指標』の開発」「Eye-tracker(視線計測)を用いた脊椎脊髄手術における手術高位誤認の原因解明」「効果的な働き方改革実現に向けた医療従事者の働き方の可視化・定量化」の3テーマで口頭とポスターの発表を行った東工大 環境・社会理工学院 建築学系の沖拓弥准教授は、「今回、共同研究を行った医科歯科大の先生方とは2023年に行われた両大学のマッチングイベントをきっかけにご縁をいただき、本日のイベントでも新しく多くの方と議論を深めることができました。今後は各研究で明らかになったことをもとに、実際に医療現場を良くする手段などの検討に入っていきたいと考えています」と抱負を述べました。
多彩な異分野融合研究の成果を学内外で広く共有した本イベントは、「今後、医療現場における両大学の交流をさらに深めれば、医療の課題を解決する上でも、理工学研究の着想を得る上でも大いにプラスになるでしょう。われわれもそうした機会を多くつくっていきますのでご期待いただければ幸いです」と語った医科歯科大の古川哲史理事・副学長(研究・改革担当)のあいさつで幕を閉じました。
後日行われたアンケートでは、「多様な視点から現在の研究の展望を学ぶことができた」「同じ大学となり医工連携がさらに加速し、より発展的な研究となることに大きく期待する」など、参加者から多くの感想が寄せられました。
医科歯科大と東工大ではScience Tokyoの設立に向け、今後も連携の取り組みをいっそう強化していきます。