物質の相転移による光のトポロジカル相転移を実現

2024年11月6日 公開

光のトポロジカル相をオンデマンドで切り替え可能、革新的な光集積回路の実現につながる成果

どんな研究?

世界のエネルギー需要が増す中、より省エネな基盤技術として、光信号を電気に変えずそのまま使用する光集積回路が注目されています。しかし、光は電気よりも制御が難しいことから、光を通したり(導波路)、通さなかったり(光絶縁)する物質の開発が必須です。

今回、理学院物理学系の納富雅也教授と大学院生の上村高広さん(後期博士課程2年)らと、日本電信電話株式会社 物性科学基礎研究所の共同研究グループは、光の通り道を必要に応じて自由に生成・再編集できる新しい素材の実現に向けて重要な発見をしました。

©森竹勇斗(納富研究室、助教)

着目したのは、トポロジーという数学的な考え方です。トポロジーは、よくドーナツと取っ手のついたマグカップの形で説明されます。この2つは全く異なる形に見えますが、トポロジー的には、同じ形(等価)とされています。いずれも「1つの穴を持つ」という点で共通しているからです。そうしたトポロジーが持つ性質(トポロジカル不変量)を保ったまま、いくつかの状態(ドーナツとマグカップ)に変化することをトポロジカル相転移と呼びます。近年、電子もトポロジカル不変量を持ち、その違いによって、さまざまな性質を表すことが発見されました。この考えを使うと、絶縁体の表面の一部だけを導体にすることも可能になり、トポロジカル絶縁体という新しい分野の研究が進んでいます。

トポロジカル絶縁体の原理は、半導体ナノ加工技術で形成するフォトニック結晶と呼ばれる人工結晶を用いると、光にも応用が可能となります。光のトポロジカル相転移を起こせれば、光導波・光絶縁をコントロールできるため、革新的な光デバイスへの応用が注目されています。一方、光のトポロジカルな性質は構造に依存するため、フォトニック結晶の作製後に、光トポロジカル相を変更することは難しいとされてきました。

本成果では、物質の相転移現象を利用することで、構造の作製後でも、必要に応じて光トポロジカル相を切り替えられることを実証しました。

ここが重要

今回鍵となったのはGe2Sb2Te5(GST)という物質で、温度や光によって結晶相と非結晶(アモルファス)相を行き来します(相転移)。この研究では、フォトニック結晶上に緻密なGSTのパターンを配置した特殊な構造を作製しました。この特殊な構造では、GSTの物質状態の相転移によって光の状態の相転移も引き起こされることが示されました。

今後の展望

今回発見された光を制御する新しい方法は、光情報処理、電気通信におけるデータ伝送の改善などの幅広い分野への応用が期待されます。

研究者のひとこと

私たちは自然界には存在しない新しい光物性の創出を目指しています。この度、物質の相転移を活用した光のトポロジカル相転移の制御を実証することに成功し、再構成可能な光回路の実現に向けて大きな一歩を踏み出しました。再構成可能なトポロジカル光回路への道を拓く重要な成果です。

論文の第一著者の上村高広さん(博士後期課程2年、 左)と責任著者の納富雅也教授

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