東京科学大学(Science Tokyo)は2026年4月15日、湯島キャンパスの鈴木章夫記念講堂において「ロボット未来創造センター開所式」を開催しました。
ヒトによる実験操作に伴う誤差や再現性の確保、少子化による研究者人口の減少といった課題を背景に設立されたロボット未来創造センターは、汎用ヒト型ロボットLabDroid「まほろ」(以下、『まほろ』)を多数導入した世界有数のロボット実験施設です。本センターでは、ロボットによる実験の自動化と大規模化を推進するとともに、将来的には人工知能(AI)との融合により、ロボットが自ら仮説を検証し新たな知識を生み出す「自律型科学研究基盤」の構築を目指しています。
記念シンポジウムは講演形式で実施され、ロボット未来創造センターの設立構想や研究活動、今後の展望について紹介が行われ、約270人が参加し、盛況のうちに開催されました。
オープニング
式典に先立ち、ロボット未来創造センターの開所を記念したテープカットが行われました。テープカットには、安川電機 小川昌寛代表取締役社長、アステラス製薬 安川健司代表取締役会長、文部科学省研究振興局 淵上孝局長、東京科学大学 大竹尚登理事長、同 田中雄二郎学長、同 ロボット未来創造センター 中山敬一センター長が、「まほろ」に持たせたテープをカットするという象徴的な演出のもと、センターの開所を祝いました。
主催者あいさつ
大竹尚登(東京科学大学 理事長)
東京科学大学の大竹尚登理事長は開会あいさつで、ロボット未来創造センターの開所にあたり、多くの関係者が集ったことはセンターの明るい将来を象徴するものだと述べ、設立に尽力した文部科学省や企業、研究機関への謝意を示しました。
東京科学大学は医歯学系と理工学系の融合を基盤に「良き生活・良き社会・良き地球」の実現を目指すビジョンを掲げ、8つのVisionary Initiatives(VI:ビジョナリーイニシアティブ)を通じて研究を推進する体制を構築しており、その中で本センターは、実験の自動化・高度化により、創薬や材料探索、AIによるデータ駆動型科学など幅広い分野の研究を横断的に加速させ、VI を縦横に支える中核拠点であると説明しました。
特にロボットによる高い再現性の確保は科学の発展に大きく寄与すると強調し、研究者、技術者、オペレーター、さらには産業界の担い手が同じ場で議論し新たな問いを生み出す「開かれた場」として、価値創造を進めていきたいと述べました。
また、産学官の連携によるこれまでの成果と今後のロードマップに触れ、引き続きの支援と協力を呼びかけ、センターと関係者の発展を祈念して挨拶を締めくくりました。
センター紹介
中山敬一(ロボット未来創造センター センター長)
続いて、ロボット未来創造センターの中山センター長が登壇し、センター設立の背景と目指す将来像について説明しました。中山センター長は、日本の科学技術力が国際的に低迷している現状に触れ、その要因として人材と投資の不足を挙げ、抜本的な研究手法の転換が必要であると強調しました。その解決策として、汎用ヒト型ロボットとAIを活用した実験の自動化・自律化を中核に据え、日本の強みを生かした新たな科学研究の在り方を提示しました。
センターでは、純国産の汎用ヒト型ロボットに「頭」と「目」を与え、AIと組み合わせることで、多様かつ高難度な実験を高い再現性と精度で遂行することを目指しています。実際に、ロボットによる実験が人手では困難な成果を安定して生み出してきた事例や、AIと連動させることで膨大な条件探索を人の介在なく実現した研究成果が紹介され、AIとロボットが科学研究にもたらす可能性が示されました。
さらに、ロボット実験室と次世代自動化開発室を一体的に運用し、研究と技術開発を同時並行で進める体制や、産学連携によるエコシステムの形成、人材育成への期待についても言及しました。将来的には、国内外のロボットネットワークの中核拠点としてプロトコルを集約・共有し、医師を含む研究者の研究支援を強化することで、全分野の研究力底上げを図ると述べました。
中山センター長は、2040年に多数のロボットをAIが統合制御し、世界中から集まる研究アイデアを日本で実験・還元する拠点を実現したいと展望を語り、これを「実験科学の産業革命」と位置づけました。最後に、集約型研究拠点への大胆な投資と知の循環を通じて、日本が再び世界トップレベルの科学力を取り戻すことを目指したいと述べ、講演を締めくくりました。
来賓あいさつ
淵上孝氏(文部科学省 研究振興局 局長)
文部科学省 淵上孝研究振興局長より来賓あいさつをいただきました。淵上氏は、東京医科歯科大学と東京工業大学の統合により2024年10月に設立された東京科学大学が、医学・歯学と理工学という異なる知の伝統を結集した国際卓越研究大学であることに触れ、その医工連携の精神を象徴する施設としてロボット未来創造センターが始動した意義を強調しました。
さらに、世界的に進展する研究実験の自動化・自律化の潮流に言及し、AI for Scienceの推進や大規模オートメーションクラウドラボの形成など、政府として進める研究システム改革との高い親和性を示しました。
また、最先端ロボットのみならず、オペレーション人材、エンジニア、生命科学・医学分野の研究者が同じ空間で協働する点こそが本センターの最大の強みであり、新たな知の融合と創発を生み出す場になるとの期待を述べました。
最後に、同センターが国内外の研究者にとって不可欠な研究基盤として発展し、我が国の国際的研究競争力を牽引する存在となることを期待するとともに、関係者への敬意と祝意を表しました。
安川健司氏(アステラス製薬株式会社 代表取締役会長)
アステラス製薬株式会社 代表取締役会長の安川健司氏より来賓あいさつをいただきました。安川氏は、東京科学大学ロボット未来創造センターの開所に祝意を示すとともに、医工連携が切り開く再生医療・細胞医療の新時代について述べ、再生医療は大きな科学的ブレークスルーである一方、患者に価値を届けるためには、研究成果を社会実装する仕組みが不可欠であると強調しました。
また、アステラス製薬が低分子医薬品及び醗酵医薬品中心で、特定の疾患を対象とした研究開発モデル(グローバルカテゴリーリーダー)から転換し、病因理解に基づく研究、あらゆるモダリティの活用、将来にわたるアンメットメディカルニーズへの対応を軸とした戦略(プライマリーフォーカス)を進めてきた経緯に触れました。特に、プライマリーフォーカスの一つである再生医療・細胞治療における製造の再現性や安定供給の難しさを課題として挙げ、ロボットとAIによる製造プロセスの自動化・デジタル化が不可欠であるとの認識を示しました。
さらに、アステラス製薬と安川電機による合弁会社セラファ・バイオサイエンスの設立を紹介し、製薬とロボティクスという異業種がそれぞれの強みを生かした研究・開発・製造を一体で進める新しいパートナーシップ型モデルの意義を説明しました。東京科学大学との連携については、これまでの研究交流から社会実装へと発展していることに言及し、ロボット未来創造センターが、再生医療研究の加速と新たな科学的発見の拠点となることへの期待を述べました。最後に、同センターから世界に挑戦する人材と社会に貢献する成果が生まれることを期待するとともに、アステラス製薬が、信頼されるパートナーとして連携を深めていく決意を示しました。
小川昌寛氏(株式会社安川電機 代表取締役社長)
株式会社安川電機 代表取締役社長の小川昌寛氏より来賓あいさつをいただきました。小川氏は、ロボット未来創造センターの開所に際し、長年にわたり構想してきたAIロボティクスによる生命科学分野の社会実装が、具体的に動き出したことへの強い感慨を述べました。
安川電機が注力するAIロボティクスは、従来の大量生産向け産業ロボットの枠を超え、人間の判断力や柔軟性を取り込むことで、自律的に最適解を導く新たな段階に入っていると説明しました。その象徴として、人の使う道具を扱い、多様な作業に対応可能なロボット「MOTOMAN NEXT」を紹介し、AIによる判断力を備えたロボットが研究や医療・生命科学の現場に革新をもたらすとの期待を示しました。
さらに、東京科学大学を中心に、大学、企業、スタートアップが同居するエコシステムが形成されている点を高く評価し、この場がAIロボティクスの社会実装を加速し、人類の課題解決に貢献する中核拠点となると述べました。最後に、安川電機としても技術開発と連携に一層注力し、本センターを起点に未来の医療・科学を支えるソリューション創出に取り組んでいく決意を表明しました。
記念シンポジウム
夏目徹氏(産業技術総合研究所 首席研究員)
夏目徹氏は、ロボット未来創造センターの開所を祝し、関係者への謝意と敬意を述べたうえで、自身が携わってきた「まほろ」の開発の歩みを通じ、ロボット、ライフサイエンス、AIを融合した研究の意義を語りました。産業ロボットの父と称される安川電機・鈴木健生氏との出会いを起点に、人が使う道具をそのまま扱える汎用ロボットという構想が生まれ、長年の試行錯誤を経て実用化に至った経緯を紹介しました。
開発の過程では、ライフサイエンス実験を再現性高く行うためのティーチング手法の工夫や、ロボットが人間を上回る精度と安定性を示した実証結果が重要な転機となったことを強調しました。また、当初は理解されにくかった汎用ロボットという考え方が、細胞培養、創薬、ゲノム解析、新型コロナウイルス対応など多様な場面で即時に転用できる点に強みがあり、研究開発と社会実装をつなぐ基盤として価値を発揮してきたと述べました。
さらに、ロボットとAIの組み合わせにより、人間には困難だった高度な最適化が可能となり、再生医療や遺伝子治療における製造コストや品質の課題を克服し得ることを示しました。こうした技術とノウハウを蓄積・再利用できる汎用ロボットこそが、日本のライフサイエンス分野の発展を支える鍵になると指摘しました。最後に、ロボット未来創造センターが研究開発と社会実装をシームレスにつなぐ中核拠点として、新たな価値創出を牽引することへの期待を表明しました。
山口秀人氏(セラファ・バイオサイエンス株式会社 代表取締役社長CEO)
山口氏は、低分子医薬から抗体医薬、細胞医薬へと進化してきたモダリティの歴史を踏まえ、iPS細胞の実用化が進む中で、再生医療が新たな医療の時代を切り拓いている現状に言及しました。一方で、細胞そのものを製品とする細胞医薬品は、製造プロセスが品質を規定するという特性を持ち、再現性や品質管理の確保が極めて難しいという課題があることを指摘しました。
こうした課題に対し、ロボットとAIを活用した製造自動化の重要性を示すとともに、研究初期から治験薬製造までを一貫して支える「エンドツーエンド自動化」という新たなアプローチについて説明しました。特に、同社が推進する「まほろ」を用いた細胞製造の自動化の取り組みでは、製造工程の九割以上を自動化し、手作業と同等以上の品質を維持しながら、研究開発期間の大幅な短縮が可能であることを紹介しました。また、この技術が米国FDAの先端製造技術指定(AMTD)を日本企業として初めて受けた点にも触れ、国際的にも高い評価を得ていることを強調しました。
さらに、ロボットとAIを組み合わせた実証研究として、iPS細胞からの分化誘導プロセスを自動化・最適化した事例を紹介し、高い再現性と精度がデータ駆動型研究を加速させることを示しました。これにより、細胞製品を規定する重要品質特性の特定や細胞株ごとの違いに対応した迅速なプロトコル開発が可能となり、将来的には個別化医療への応用も期待されると述べました。
最後に山口氏は、製薬企業の知見とロボティクス技術を融合したプラットフォームを広くアカデミアや産業界に提供することで、再生医療産業全体のエコシステム構築に貢献したいと語りました。ロボットによる迅速な技術移転を通じ、日本発の再生医療製造の新基準を世界に展開していくことへの強い意欲を示し、講演を締めくくりました。
阪口啓(東京科学大学Innovative-Life Society PD、超スマート社会卓越教育院 教育院長、工学院 教授)
阪口教授は、本学が描くロボットとデジタル技術の将来像について説明しました。通信・5G研究を起点としたこれまでの経験に触れつつ、サイバー空間とフィジカル空間を結ぶデジタルツインが、今後の産業、医療、福祉、モビリティを支える中核になるとのビジョンを示しました。特に、AIとロボットが協調する社会において、スマート医療や次世代ヘルスケアが重要な柱となり、100歳まで活躍できる社会の実現を目指していると述べました。
また、その実現に向けては医工連携を前提に、基礎科学から応用、さらには人文社会科学までを含む分野横断的な融合体制が不可欠であり、国際卓越研究大学の枠組みによる完全融合型組織の強みを強調しました。加えて、国内外の大学、企業、自治体との連携によるエコシステム構築や、海外ハブを拠点とした国際連携の重要性に言及し、デジタルツインを世界的な共通基盤として展開していく方針を示しました。
さらに、デジタルツインを活用した自動運転や都市モビリティの具体例を紹介し、交通安全や効率性の大幅な向上、AIの連続学習による社会実装の可能性を説明しました。これらの取り組みは、将来、医療・介護・農業など多様な分野へ波及するものであり、ヒューマノイドを共通のヒューマンマシンインターフェースとすることで分野間のシナジーを生み出すと述べました。最後に、こうした研究成果を社会に還元し、安全で持続可能な未来社会を実現していきたいとの期待を示しました。
神田元紀(東京科学大学 ロボット未来創造センター 副センター長、難治疾患研究所 教授)
神田副センター長からは、生命科学研究の自動化とAI活用が切り拓く近未来像について講演が行われました。神田副センター長は、分子生物学を背景に、再生医療分野を中心としてロボットとAIによる実験自動化や自律的最適化に取り組んできた経験を紹介し、実験科学において物理空間での実験を担う自動化技術が今後ますます重要になると指摘しました。国内外の製薬企業や研究機関における実験自動化の進展、AIエージェントによる研究支援の急速な高度化を踏まえ、生命科学における「自律実験」の実用段階への移行を強調しました。
さらに、実験ロボットを人手なく24時間稼働させるためには、搬送・監視・復旧などを担うフィジカルAIによるオペレーションケアの自動化が不可欠であると述べ、任意の実験を無人で実行できる「自律実験室」の実現を目標に掲げました。また、AIによる論文生成が現実となりつつある中で、学術成果の評価や共有の在り方を再設計する必要性にも言及し、技術開発と制度設計を一体的に進める重要性を強調しました。最後に、医歯学と理工学、アカデミアと産業界、現在の技術と未来の技術を横断的に結集し、ロボット未来創造センターが未来の科学研究を切り拓く拠点となることへの期待を述べました。
閉式あいさつ
田中雄二郎(東京科学大学 学長)
東京科学大学の田中雄二郎学長より、閉会のあいさつが行われました。田中学長は、長時間にわたり開催された開所式対して、登壇者および参加者への感謝の意を表しました。その上で、本学が「良き未来の実現」を掲げ、社会の多様なステークホルダーとビジョンを共有しながら歩む大学として、国際卓越研究大学に選定されたことに触れ、その責任を着実に果たしていく決意を示しました。ロボット未来創造センターの設立もその具体的な取り組みの一つであり、大学として本気で推進していく姿勢を強調しました。最後に、参加者一人ひとりがステークホルダーとして本学と共にエコシステムを築き、未来社会の創造に参画していくことへの期待を述べ、シンポジウムを締めくくりました。
お問い合わせ
研究推進部 研究基盤推進課 研究基盤支援グループ
- kiban.adm@tmd.ac.jp
- Tel
- 03-5803-4162
- 住所
- 〒113-8510 東京都文京区湯島1-5-45