要点
- 株式会社ジャパンディスプレイ(以下、JDI)が保有する製造施設に株式会社テック・エクステンション(以下、TEX)は、JDI石川工場にTEXがディープテックとして保有するBBCube(Bumpless Build Cube)技術に基づく次世代三次元集積技術を用いた製造ラインを構築することに合意した。
- JDI、TEXの2社は、JDIが保有するディスプレイ製造技術、TEXが保有するBBCube製造技術を持ち寄り、次世代三次元集積デバイスからPLP(Panel level package)までを一貫して対応する製造ラインの構築及び、それらを活用した新会社設立をも含めビジネスアライアンスを協議することに合意した。
- TEXが主導して構築する次世代三次元集積製造ラインでは、東京科学大学総合研究院WOW アライアンス異種機能集積研究ユニットその他大学ならびに産業界と共同で人材育成を含めた研究・開発を並行して実施する予定。
- 今後、2025年3Qより順次設備を立ち上げ、2025年4Qまでに、一貫製造ラインを立ち上げる予定。BBCubeのプラットフォームであるWOW技術とCOW技術が順次適用される予定。
- 今回のJDI、TEXの2社によるBBCubeビジネスアライアンスを通じて半導体サプライチェーンを強化しポスト微細化としての次世代三次元集積技術の社会実装を前進させたい。
概要
東京科学大学 総合研究院WOWアライアンス異種機能集積研究ユニット、JDI[用語1]、TEX[用語2]は、東京科学大学 総合研究院WOWアライアンス異種機能集積研究ユニット(旧 東京工業大学 科学技術創成研究院 異種機能集積研究ユニット)において研究を行ったディープテックであるBBCube[用語3]技術を基にした次世代三次元集積向け製造ラインをJDI石川工場に構築すること、及びビジネスアライアンスにおける新会社設立に向けた検討開始することに合意しました。さらに、両社の関係を強化するため、JDIからTEXへの出資契約を締結いたしました。BBCube技術に基づく次世代三次元集積向け一貫製造ラインの構築は世界初となり、JDI社のディスプレイ製造施設を活用してWOW(Wafer on Wafer)[用語4]からPLP(Panel Level Packaging)[用語5]までの製造を包括します。これによりポスト微細化時代の次世代三次元集積技術[用語6]が大きく進展することが期待されます。
TEXは、BBCube技術のプラットフォームであるWOWの技術とCOW (Chip on Wafer)[用語7]技術を本次世代三次元集積向け製造ラインに移転します。この技術移転では、WOW アライアンス[用語8]で得られた成果をもとに、プロセス技術・装置・材料へ活用されます。
現在、最先端半導体が抱える課題、すなわち原子レベルの見えない欠陥(invisible defect)の増加で歩留まりが飽和する時代を迎え、WOWによるウエハ積層技術とCOWで平面から縦方向に向けたチップレット集積が一層重要になります。今回の提携はこれらのニーズに応えるものであり、プロダクトアウトとマーケットインをシームレスに結び付け、半導体サプライチェーンを強化します。また、2025年後半に次世代三次元集積技術向けの一貫製造ラインを立ち上げ、BBCubeのプラットフォームであるWOW技術とCOW技術が順次適用される予定です。さらに、JDI石川工場における次世代三次元集積製造ラインでは、Science Tokyo WOWアライアンス、その他大学並びに産業界と協調し、人材育成を含む研究・開発を並行して行う予定です。
TEXの持つ高性能化・低消費電力化を実現する三次元集積技術と、JDIがディスプレイで培ったディスプレイ製造技術[用語9]として、高密度配線技術、薄膜・ガラス加工技術、試作から量産への生産技術、そしてグローバル顧客への安定供給能力を活用し、高品質・低コストでシナジー効果を生み出し、拡大する最先端半導体パッケージング市場をリードする次世代三次元半導体製品を提供してまいります。

今後の予定
- 2025年2Qクリーンルームの構築、設備選定を実施(フェーズ1)
- 2025年3Q〜2025年末には、順次設備を立ち上げ、開発・製造一貫ラインを構築(フェーズ2)
- 2025年後半から、ウエハ投入量に合わせた量産化
- 半導体関連大学、公的研究機関、産業界に対して、開発・製造ラインを通じてBBCube技術をベースとした共同研究・開発を実施
用語説明
- [用語1]
- 株式会社ジャパンディスプレイ:2012年にソニー、日立製作所、東芝のグローバルディスプレイ事業統合により設立された日本を代表するディスプレイテクノロジーカンパニー。次世代有機EL(Electro Luminescence)技術、車載用ディスプレイ、LTPSディスプレイのバックプレーン、設計、プロセス技術に強みを持っています。詳しくは 株式会社ジャパンディスプレイ をご参照ください。
- [用語2]
- 株式会社テック・エクステンション:BBCube技術を社会実装することを目的に2018年1月16日に東京工業大学 科学技術創成研究院 大場隆之特任教授が設立した東京工業大学発ベンチャー企業。本社は、日本、東京。
- [用語3]
- BBCube(Bumpless Build Cube):従来の平置きチップレットを三次元でコンパクトにまとめ、バンプを利用しないでシステムの小型化を可能にするアーキテクチャー。
参考:Ohba, T.; Sakui, K.; Sugatani, S.; Ryoson, H.; Chujo, N. Review of Bumpless Build Cube (BBCube) Using Wafer-on-Wafer (WOW) and Chip-on-Wafer (COW) for Tera-Scale Three-Dimensional Integration (3DI). Electronics 2022, 11, 236. DOI:/10.3390/electronics11020236 - [用語4]
- WOW:Wafer-on-Wafer技術の略で、ウエハ上に約10ミクロン厚さのウエハを接合しながら接続配線し、何枚も積み上げることができる積層技術。DRAMなど同一チップサイズのウエハ積層の生産性向上に大きく寄与する。
- [用語5]
- PLP(Panel level package):FOWLP(Fan out wafer level package)で量産採用された、チップの一括製造の考え方をパネルレベルでの製造に応用したものです。
- [用語6]
- 次世代三次元集積技術:三次元集積された半導体チップを最短で高密度配線する次世代半導体技術。WOWアライアンスが保有するウエハの超薄化技術とウエハ積層ごとにCu多層配線技術で上下接続することから、バンプが不要になり最短10ミクロンの垂直配線を高密度で並列配線できる。このため配線抵抗、寄生容量は最小となり、従来に比べ高性能・低消費電力の三次元システムを実現することができる。
- [用語7]
- COW技術:チップレットをウエハ上に接合しながらWOW技術で接続配線する技術。チップをトレンチ加工したウエハ(ワッフルウエハ)上に接合することにより、以降の半導体製造工程において、各種ウエハプロセス装置を用いた高精度な配線加工が行えるようになる。異なるチップサイズの接合も行えることから、サーバーなどの大規模演算2.5Dシステムだけでなく、搭載される異種機能デバイスシステムを超小型化で三次元集積することが可能になる。
- [用語8]
- WOWアライアンス:東京科学大学総合研究院WOWアライアンス 異種機能集積研究ユニット(旧 東京工業大学 科学技術創成研究院 異種機能集積研究ユニット)(大場研究室)が中心となって運営される産学研究プラットフォーム。半導体関連の設計・プロセス・装置・材料などを手がける企業、および研究機関によって構成される。三次元開発としては国内唯一300ミリウエハを利用した実証開発、高度かつ簡便なウエハの薄化技術・積層技術を持ち、バンプレスTSV配線を用いた三次元化技術を世界で初めて開発に成功した。参考:WOWアライアンス異種機能集積研究ユニット(大場隆之研究室)
- [用語9]
- ディスプレイ製造技術:ガラス基板またはフレキシブル基板上にTFT(Thin Film Transistor、ポリシリコンや酸化物半導体を用いた薄膜トランジスタ)やカラーフィルターを形成し、液晶や有機ELを用いて表示パネルを作るプロセスです。主な工程には、ガラス基板やフレキシブル基板上に半導体層や絶縁層、配線層を積層することでTFT回路や画素回路を形成するほか、基板加工や偏光板の貼り付け、駆動ICの実装などが含まれます。最終的に品質検査を経て、スマートフォンやウォッチなどのディスプレイとして使用されます。