ポイント
- 流れの目詰まり現象が非平衡相転移であることを実証
- 超伝導体の磁束の流れを用いて、流れを妨げる目詰まりの検出に成功
- 遍在する目詰まり現象の統一的理解と目詰まりの予測・制御につながると期待
概要
東京科学大学(Science Tokyo)理学院 物理学系の嶺村貴秀大学院生(研究当時、東京工業大学修士課程)と大熊哲名誉教授の研究チームは、身の回りで広く見られる流れの目詰まり現象が、非平衡[用語1]相転移であることを初めて実験的に証明しました。
流体や粒子の流れの通り道に狭い隘路構造があると、流れは目詰まりを起こし、流速の低下や流れの閉塞をもたらします。この目詰まり現象は、各種フィルターや透析などでろ過の仕組みとして広く利用される一方、プラントやインフラ配管、血管をはじめとする移送管[用語2]での目詰まりは事故の原因になります。そのため、目詰まり現象の背後に潜む共通の原理を解き明かすことは、基礎・応用両面において重要です。
本研究では、駆動した超伝導体の磁束[用語3]の流れが減衰する様子を測定することにより、磁束が試料の欠陥に捕まる磁束のピン止め[用語4]と、ピン止めされた磁束が作る隘路構造に堰き止められる目詰まりを区別して検出することに成功しました。定常流または閉塞状態に達するまでの緩和時間は両者で大きく異なりますが、共に同じ臨界駆動力で発散し、臨界指数の値も等しいことが分かりました。これらの結果から、目詰まり現象は、ピン止め現象で生じるディピニング転移[用語5]と同じ臨界点と臨界現象[用語6]を持つ、非平衡相転移であることを実証しました。
本研究の成果は、日常生活に遍在する目詰まり現象の統一的理解と、社会的要請の強い “目詰まりの予測と制御” にもつながると期待されます。
本成果は、9月25日付(英国現地時間)の科学誌「Communications Physics」誌に掲載されました。
背景
流体や粒子の流れの途中にボトルネックとなる隘路構造があると、目詰まりを起こして、局所的に、あるいは系全体にわたって流れが消失します。目詰まりに関する現象は身の回りで広く見られます。例えば、フィルターやろ過・透析装置では不要物の除去のために目詰まり現象が利用される一方で、移送管の目詰まりはトラブルの原因となります。また、狭いゲートを通過する人流や動物の群れも目詰まりを起こします。このような目詰まり現象を支配する共通の原理を見出すことは、基礎科学と応用の両面から重要です。そこで本研究では、超伝導体の磁束の流れ(フロー)を用いて、非平衡目詰まり転移の実証に挑みました。
研究成果
超伝導体の磁束系は均質な2次元多粒子系とみなすことができ、電流によって制御した駆動力を印加し、流速を電圧により高精度に検出できるといった特徴が、非平衡現象を調べるのに適しています。今回の研究で用いたアモルファスMoxGe1-x膜では、ランダムに分布したミクロな欠陥が、流れる磁束を個々にピン止めします。一方、ピン止めされた磁束が壁状の隘路構造を作ると、磁束間の反発力のため、流れ込む磁束が堰き止められて目詰まりが起きます。本研究では、この目詰まりが駆動力の反転ですぐに解消されることに着目し、流れの向きを可変にした2段階の駆動実験を考案しました。
この実験ではまず、1段目で隘路構造に磁束を目詰まりさせ、2段目で逆向きの駆動力を印加して、フロー速度の変化を測定しました(図1(a)の青色の線)。その結果、早い時間域では急激な減少緩和が、遅い時間域ではゆっくりした減少緩和が観測されました(図1(b)の青色の線)。前者は目詰まりから外れた磁束がすぐに近くの隘路で目詰まりしたことを、後者は一部のピンから外れてフローする磁束が徐々に欠陥にピン止めされていったことを表します。
そこで次に、1段目の最後で短時間だけ駆動力を反転させて目詰まりした磁束を短距離だけ動かし、2段目で元の向きに駆動させました(図1(a)の緑色の線)。すると、目詰まりによる速い緩和のみが観測されました(図1(b)の緑色の線)。この場合に遅い緩和が観測されないのは、短時間の駆動力反転では、ピン止めされている磁束はピンから外れないためです。こうして、2つの異なる起源による緩和時間を区別して求めることに成功しました。
この実験について、2段目の駆動電流I2に対する、速い緩和時間τfastと遅い緩和時間τslowの依存性を調べました(図2(a)と(b))。その結果、どちらの緩和時間も、同じ臨界電流値Icで両側からべき乗の臨界発散をすること、すなわち目詰まり転移とディピニング転移の臨界現象が現れることが分かりました。また、臨界緩和の臨界指数は共にν=1.3と求められました(図2(a)および(b)の挿入図)。運動状態にあるアクティブ粒子の割合から求められるもう1つの臨界指数も含めて、得られた臨界指数はすべて、吸収状態転移の2次元DP(異方的浸透)普遍クラス[用語7]の値と一致しました。
本研究グループはこれまでの研究で同じ磁束系を用いて、可逆不可逆転移[用語8]、ディピニング転移、プラスチックフロー-スメクチックフロー転移[用語9]の存在を実証してきました。興味深いことに、本研究の目詰まり転移を含めて、これらのすべての非平衡相転移が吸収状態転移のDP普遍クラスに属することが分かりました。
社会的インパクト
目詰まり現象は古くから、ソフトマターやレオロジー分野で多彩な研究が個別に行われきました。本研究により、この現象が臨界現象を伴う非平衡相転移であることが実証されたことは、多様な系で現れる目詰まり現象を理解する上での統一的指針が得られたことを意味します。
社会的に見ると、目詰まり現象は上下水処理や人工透析などのろ過装置、油分離器、エアコン、マスク、コーヒー抽出などのフィルターで広く利用されています。一方で、冷却水管や輸液チューブ、血管などの移送管の目詰まりは重大な事故につながります。今回の研究で明らかになった緩和時間と駆動力の普遍的関係は、将来の目詰まりの発生の有無と発生時期の予測、そして目詰まりの制御に道を開くと期待されます。
今後の展開
目詰まり現象を抑制する方法を開拓することは社会的にも極めて重要です。これまでの研究では、直流の駆動力で作られた流れに適切な交流の駆動力を重畳させると、目詰まりが抑制され、流動化を促進するというシミュレーションの予測があります。ただし、このモデルは隘路による目詰まりだけを考慮したシンプルなものです。そこで今後は、本研究の実験を発展させた直流フローに交流駆動力を重畳する実験を展開し、ピン止め効果も共存する現実の系における目詰まりの抑制と流動化の促進方法の探求を進めていきます。
付記
本研究は、科学研究費助成事業 基盤研究(B)(23K22436、25K00948)、基盤研究(C)(25K07200、25K08415)の助成を受けて行われました。
参考文献
- [参考文献1]
- S. Okuma, Y. Tsugawa, and A. Motohashi, Phys. Rev. B 83, 012503 (2011).
- [参考文献2]
- T. Kaji, S. Maegochi, K. Ienaga, S. Kaneko, and S. Okuma, Sci. Rep. 12, 1542 (2022).
- [参考文献3]
- S. Maegochi, K. Ienaga, and S. Okuma, Phys. Rev. Lett. 129, 22701 (2022).
- [参考文献4]
- S. Maegochi, K. Ienaga, and S. Okuma, Phys. Rev. Res. 4, 033085 (2022).
- [参考文献5]
- S. Maegochi, K. Ienaga, and S. Okuma, Sci. Rep. 14, 1232 (2024): ibid. 11, 19280 (2021).
用語説明
- [用語1]
- 非平衡:物質やエネルギーの流れがあり、時間と共に状態が変化し平衡状態に達していない状態。気象、生物、運動している物体など、日常には非平衡状態が多く存在している。
- [用語2]
- 移送管:液体、粉体などを送り出すための配管設備やパイプ・チューブ類。プラントの冷却水、燃料、化学薬品、寒剤、汚泥などの移送用配管や上下水用インフラ配管、医療用輸液チューブ、血管など、用途は多岐にわたる。
- [用語3]
- 超伝導体の磁束:超伝導体を貫く磁束は、渦状の超伝導電流によって磁束量子の単位で束ねられている。これは超伝導体の巨視的波動関数の一価性に由来する。磁束に電流を印加すると駆動力が働き、速度に比例した電圧が発生する。
- [用語4]
- 磁束のピン止め:超伝導体の磁束が試料の欠陥や不純物などの常伝導部分に捉えられ、ピンで止めたように動けなくなる現象。
- [用語5]
- ディピニング転移:ピン止めされた多粒子系において駆動力を増やしていくと、ある臨界駆動力で粒子がピン止めから抜け出し、フロー運動に変わる非平衡相転移。ディピニングは、超伝導体の磁束のほか磁壁や電荷密度波、コロイド粒子系などで広く見られる。
- [用語6]
- 臨界点と臨界現象:物質の相が別の相へ移り変わる境界を臨界点といい、臨界点の近くでは大きなゆらぎや物性の異常が現れる臨界現象が見られる。
- [用語7]
- 普遍クラス:臨界点付近でのマクロな振る舞いや臨界指数が同じになるグループ。
- [用語8]
- 可逆不可逆転移:ランダムな配置の多粒子系に交流剪断力を印加すると、粒子同士は衝突を繰り返し、次の衝突を避ける配置へ自己組織化していく。剪断ひずみの増大に伴い、各周期後に全粒子が元の位置に戻る可逆状態から、一部の粒子が戻らなくなる不可逆状態へ変わる非平衡相転移を、可逆不可逆転移という。
- [用語9]
- プラスチックフロー-スメクチックフロー転移:駆動力の増大に伴って、ピン止めの影響を強く受けた乱れたプラスチックフローから、横方向に周期的な秩序をもつスメクチックフローへと変化する非平衡相転移。
論文情報
- 掲載誌:
- Communications Physics
- タイトル:
- Clogging transition for vortices driven by dc current
- 著者:
- Takahide Minemura, Shun Maegochi, Koichiro Ienaga, Shin-ichi Kaneko, and Satoshi Okuma
研究者プロフィール
嶺村 貴秀 Takahide Minemura
東京工業大学 理学院 物理学系 修士課程(研究当時)
田中貴金属工業株式会社
研究分野:物性物理実験
前垣内 舜 Shun Maegochi
東京工業大学 理学院 物理学系 学士課程(研究当時)
株式会社日立ハイテク
研究分野:物性物理実験
家永 紘一郎 Koichiro Ienaga
東京工業大学 理学院 物理学系 助教(研究当時)
山口大学 大学院創成科学研究科 准教授
研究分野:物性物理実験
金子 真一 Shin-ichi Kaneko
東京科学大学 理学院 物理学系 助教
研究分野:物性物理実験
大熊 哲 Satoshi Okuma
東京科学大学 理学院 物理学系 名誉教授
日本原子力研究開発機構 客員研究員
研究分野:物性物理実験