ピンクダイヤで未来を変える!電気のムダを見える化する新技術を開発

2025年7月15日 公開

ダイヤモンド量子センサで電気をムダなく使う次世代社会への一歩

どんな研究?

スマートフォンや電気自動車などの電子機器は、わたしたちの生活において、もはや欠かすことができないアイテムです。これらの機器には、電気を効率よく使うためにコイルが内蔵されています。コイルの磁気を強める磁石は、電気の効率をつかさどる非常に重要な部品です。

しかし、磁石の中では、本来使いたい電気エネルギーが熱エネルギーなどに変わり失われることがあります。こうしたエネルギー損失が増えると、機器の効率が下がってしまいます。ところが、磁石内部で起きているエネルギー損失の詳細を調べることは、これまで非常に困難でした。

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そこで、東京科学大学(Science Tokyo)の波多野睦子(はたの・むつこ)教授らとハーバード大学の研究チームは、人工ピンクダイヤモンドを使った「ダイヤモンド量子センサ」を開発しました。このセンサは、ダイヤモンドの中に人工的に導入したNVセンタ※用語1と呼ばれる微小な構造を利用します。
ピンク色の発色源であるNVセンタは、実は、磁石の中で、磁気がどのように変化しているのかを高精度で観察するセンサに応用できます。そして、この磁気の変化こそが電気エネルギーの損失と密接に関係しているのです。

ここが重要

研究チームは、ピンクダイヤモンドのNVセンタを活用し、千分の1~数百万分の1秒という高速で変化するコイルに流れる電気信号に対し、磁石の内部の磁気の動きを、ミクロな領域ごとに顕微鏡画像として可視化する技術を開発しました。この技術により、磁石の「どこで」「どのように」磁気が変化しているのかを画像として捉えることができます。

磁気の変化の大きさや、電気信号に対する変化の遅れは、エネルギー損失の重要な手がかりです。今回の技術により、コイル内部にある磁石の「どこで」「どのように」エネルギーが失われているのかをこれまでにない精度で明らかにすることに成功したのです。この成果は、電気のムダを最小限に抑え、かつ、より効率的な材料を作ることに役立つと見込まれています。

さらに、ダイヤモンド量子センサを利用した今回の新技術は、N極とS極が1秒間に何千回〜何百万回も反転するような高速な磁気変化(kHz〜MHz)にも対応可能です。エネルギー損失の様子を正確に調べることができるため、幅広い分野への応用が期待されています。

今後の展望

この新技術は、電気を効率よく使うための機器設計や材料の開発に大きく貢献することが期待されています。例えば、電気自動車のモーターやスマートグリッド(賢い電力網)など、エネルギーを効率的に使うための技術に応用できるかもしれません。
また、磁気を使った記録装置や新しい電子デバイスの開発にも役立つと考えられています。将来的には、私たちの暮らしをより快適でエネルギー効率の良いものにするための技術として、広く活用されることが期待されています。

研究者のひとこと

今回の研究では、量子力学の原理を使って、これまで見ることができなかった材料の内部の変化を観察する新しい方法を開発しました。この技術がエネルギー効率の向上、カーボンニュートラルや新しいデバイスの開発に役立つよう取り組んでいきます。自分たちの研究がより良い未来を生み出していくんだ、という情熱が私たちの研究室の原動力です。(波多野睦子:東京科学大学 工学院 電気電子系 教授)

波多野睦子教授

用語説明

※ 用語1. NVセンタ : ダイヤモンド中の窒素と空孔(原子の抜けた部分)からできた微小な構造

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