ヒトの免疫システムを構成するRNAを隅々調査! 16万種類のRNA情報をもとに免疫性疾患の解明に挑む

2025年1月21日 公開

ヒト免疫細胞に特化したRNAのデータベースを新たに構築、免疫性疾患の理解と新規治療法開発に光

どんな研究?

ヒトの体内にはさまざまな免疫細胞が存在し、病気から体を守っています。しかし、こうした免疫系が正常に機能しなくなり、自分自身の細胞を攻撃してしまうことで、関節リウマチや潰瘍性大腸炎などの自己免疫疾患が引き起こされます。自己免疫疾患や免疫性疾患を理解するには、それぞれの免疫細胞の働きを知ることが重要です。そのためには、細胞内の遺伝子の発現(DNAからRNAが転写・翻訳されタンパク質となる過程)をより深く調べる必要があります。

免疫細胞の種類(抗原提示細胞、T細胞、B細胞、形質細胞)が異なると、遺伝子配列は同じでも転写・スプライシング※用語1されるRNAが異なるため、タンパク質の機能も変化する

遺伝子の発現量を調べる際に、既存の方法では、RNAの一部分の塩基配列を解読し、そのRNAを判別していました。しかし、実際には1つの遺伝子から複数の異なるRNAが作られており、これは選択的スプライシングと呼ばれています。免疫細胞それぞれの働きを詳細に調べるためには、細胞内の全てのRNAの全塩基配列を調べる必要がありますが、技術的に難しく、十分な解析が行われてきませんでした。

今回、総合研究院難治疾患研究所ゲノム機能多様性分野の高地雄太教授率いる共同研究チームは、最新技術を用いてその難問に挑戦しました。研究チームが採用したのは、「長鎖RNAシーケンス技術」です。長くつながったRNA分子の塩基配列を決定する技術で、従来の方法よりも長い配列を読むことができます。この技術を用いて、29種類のヒト免疫細胞のそれぞれの細胞内でどのようなRNAが転写されているかを調査し、その結果をまとめて、ヒト免疫細胞に特化したRNAデータベース「RAnscriptomic resource of Immune celLS:TRAILS」を新たに構築しました。

ここが重要

TRAILSには16万種類近いRNAの情報が蓄積されており、その半分以上は新たに発見されたRNAです。その中にはゲノム中を動き回るトランスポゾンと呼ばれる配列が多く見られました。これは、免疫システムの進化にトランスポゾンが大きく関わってきたことを示す証拠だと考えられます。さらに、研究チームはTRAILSを用いて、アルツハイマー病などの免疫性疾患に関連するRNAを探し出すことにも成功しました。

今後の展望

TRAILSが持つ最新かつ重要な情報を活用することで、アルツハイマーや関節リウマチといった免疫性疾患の病因解明に貢献すると考えられます。

研究者のひとこと

本研究では、ヒト免疫細胞の働きを支えるRNAの多様性について、その全容を初めて明らかにしました。このデータベースを用いることで、今後、複雑な病気の解明や治療に貢献できることが期待されます。

高地雄太教授

用語説明
※ 用語1. スプライシング:遺伝子の情報をもとに作られたmRNAから不要な部分を取り除き、タンパク質の設計図となるmRNAを完成させる仕組み

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