巨大地震のはじまりを読み解く地下3次元マップ

2026年4月17日 公開

電気と磁気の力でトルコのマルマラ海の地下を透視し、初めて立体的に可視化

どんな研究?

もし海底よりさらに10km下を見通すことができたら、そこにはどんな世界が広がっているでしょうか。今回の研究は、トルコ・マルマラ海の地下の構造を、電気と磁気を手がかりに探った研究です。

この地域には「北アナトリア断層」という世界でも有名な活断層があります。1939年以降、この断層では大きな地震が西へ西へと移動するように発生してきました。1999年には、マルマラ海の東端でマグニチュード7クラスの大地震が2回も起きています。そして次の地震はマルマラ海で起きるのではないかと予想されてきました。

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しかし、これまでのところ、マルマラ海全域における地下構造の全体像を立体的に調べることはできていませんでした。海底観測機器の設置が難しく、データが不足していたうえ、3次元で解析するには非常に大きな計算が必要だったためです。その結果、断層がどのようにつながっているのか、どこに地震のエネルギーがたまりやすいのかは、はっきりしていませんでした。

そこで東京科学大学(Science Tokyo)の小川康雄(おがわ・やすお)名誉教授らの研究チームは、マルマラ海の海底観測を含むデータを広く集めて統合し、最新の解析手法を使うことで、地殻から上部マントルに至るまでの地下の構造を3次元で明らかにしました(図1)。

ここで用いた方法は、電磁気を使って地下を調べる「マグネトテルリック(MT)法」です。MT法では、人工的に電気を流すのではなく、太陽活動や雷によって生じ、地球全体に広がる電気と磁気の揺らぎを観測します。地表に置いたセンサーでその伝わり方を調べることで、地下のどこが電気を通しやすいか、つまり水や岩石の状態の違いを読み解くことができます。これまでの研究から、地下に「流体」と呼ばれる水や溶けた岩石がある場所では、断層がすべりやすくなり、地震活動と深く関係している可能性が示されていました。

図1:マグネトテルリック(MT)法を使って、マルマラ海域の地下構造を3次元で示した図。断層が動きやすい弱い領域(暖色)、しっかり固定された領域(寒色)を表しています(Kaya-Eken et al., 2026, Geology より引用)

ここが重要

研究の結果、この地域の地下では、場所によって岩石の状態が大きく違うことがわかりました。一つは、流体が多く含まれ、岩石がもろくなっている場所です。こうした場所では断層がすべりやすくなっていると考えられます。実際に、小さな地震が頻繁に起きていることが確認されています。一方で、岩石がしっかりと固まり、なかなか動かない場所も見つかりました。ここでは地下で力が少しずつたまり続け、将来大きな地震のきっかけになる可能性があると考えられます。

つまり、この地域では、「よく動く場所」と「動かずに力をためる場所」がまだら模様のように並んでいることが明らかになりました。特に注目されるのが、マルマラ海の中央より少し西側にある中央盆地とマルマラ海の東側にあるチャナルジュク盆地の間にある領域です。ここは動きにくい領域で、将来の巨大地震が始まる場所になる可能性があると解析されました。

今後の展望

マルマラ海の地下には、まだひずみがたまったままの領域が残っていると考えられています。もしそこが一度に大きく動けば、マグニチュード7クラスの巨大地震が再び起きる可能性があります。

今回の研究で得られた地下構造の情報は、どこに地震エネルギーがたまりやすいのかを理解する手がかりになります。これにより、将来発生しうる地震の規模や頻度、それによる揺れの強さなどをより詳しく評価できるようになります。また、防災対策の検討にも役立つと期待されています。

研究者のひとこと

この研究は、多くの共同研究者の協力のもとに、十数年の年月を経て遂行することができました。
このような海底下の3次元的な電磁イメージ研究はまだ始まったばかりです。今後日本周辺や世界の沈み込み帯の巨大地震地域に展開され、地震発生場に関する基礎的な情報が蓄積されていくことが期待されます。
(小川康雄:東京科学大学 名誉教授 / 本研究当時 同大学 総合研究院 多元レジリエンス研究センター 研究員)

小川康雄名誉教授

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