ポイント
- 1日に最大約500サンプルの光触媒性能評価を実現するハイスループット手法を開発
- 光触媒反応の速度論解析にも利用できることを実証
- 半導体 × 助触媒の膨大な組み合わせ空間に対し、全元素レベルの探索への道を拓く
概要
光エネルギーを利用して種々の化学反応を駆動する光触媒は、太陽光の有効利用という観点で重要な技術です。しかし、その性能は材料組成や合成条件に大きく影響することが知られています。これらを理解し高性能材料を発見するには、簡便で高速な評価手法が求められています。
今回、東京科学大学 物質理工学院 材料系の張葉平助教(研究当時、北陸先端科学技術大学院大学特任助教)及び北陸先端科学技術大学院大学 物質化学フロンティア研究領域の谷池俊明教授らの共同研究チームは、光触媒色素分解において評価速度を大幅に向上させ、最大約500サンプル/日のスループット解析が可能な手法を開発しました。本手法により、材料探索で必要とされる性能評価を飛躍的に効率化でき、多様な光触媒材料の探索や反応特性の比較を大規模に進められることが期待されます。
背景
光触媒材料は主に、光吸収層の役割を果たす「半導体」と、生成した電荷の分離や表面反応速度を向上させる「助触媒」を組み合わせて構成されます。これらはいずれも周期表の広い範囲に候補が存在し、さらに合成条件によって性能が大きく変化します。そのため、光触媒研究では、膨大な材料の中から有望な組み合わせを見つけるため、性能をどれだけ速く、かつ正確に評価できるかが研究加速の重要な鍵となっています。
研究の詳細
本研究では、光触媒の性能評価として広く利用されているメチレンブルー色素の分解反応を対象に、評価速度を大幅に向上させるためのマイクロプレート法を開発しました(図)。具体的には、光触媒を分散させた水(スラリー)と色素溶液をマイクログラムオーダーで取り扱い、96ウェルマイクロプレート[用語1]へ分注することで、従来の反応容器を小型化・並列化しました。このマイクロプレートに対して、光照射と分光測定を交互に行う操作を繰り返し、色素分解の進行を時間分解で追跡できることを確認しました。これにより、光照射から分解量の測定までを一連で行う光触媒性能評価の全過程を、96ウェル単位で複数枚同時に運用することで数百サンプル規模の同時処理が可能であることを実証しました。さらに、色素濃度を変化させた実験により、反応の速度定数が光触媒量によって変化することを確認しました。これは、本手法が単なるスクリーニングにとどまらず、反応メカニズムの検討にも利用できることを示しています。
また、本技術は従来の評価において労力と時間を要していた光触媒分離のステップを排除しています。この排除により、色素の吸収と光触媒の吸収・散乱が重なることが懸念されていましたが、詳細に調べた結果、両者が独立に入射光に対して応答する低濃度領域が存在し、その領域内では、色素の吸収量の変化を正確に捉えられることが明らかになりました。このことから、本手法が幅広い光触媒・色素系に適用できる柔軟性を備えていることが実証されました。
今後の展望
今回の技術は、光触媒研究における材料探索のスピード不足という大きな課題を根本から改善するものです。期待される応用は主に次の二点です。
- 従来の仮説検証型研究や精密評価を、より多くの条件で並列に実施できるようになります。1回の実験で取得できるデータ点数を大幅に増やせるため、検証の精度向上や、従来の仮説では予想できなかった現象の発見につながる可能性があります。
- 周期表全体にわたるような広大な材料空間を対象とした探索が現実的になります。多くの候補材料を短時間で評価できるため、これまで手が届かなかった組み合わせにまで探索範囲を拡張できます。特に、同一の測定条件で多数の材料データを統一的に取得できる点は、実験データに基づくデータ駆動型研究において大きな利点となります。
研究チームは今後、本手法を実際に多様な光触媒・色素系への適用を進め、光触媒の大規模探索や反応メカニズムの体系化に貢献することを目指しています。
研究資金
本研究は、日本学術振興会科学研究費助成事業 特別研究員奨励費(24KJ1201)、リバネス研究費京セラ賞の支援を受けて実施されました。
用語説明
- [用語1]
- 96ウェルマイクロプレート:96個の小さな容器(ウェル)が並んだ実験用プレートで、多数の試料を同時に扱う際に使用される。
論文情報
- 掲載誌:
- ACS Environmental Au
- タイトル:
- A Simple Microplate Assay for Accelerated Photocatalytic Activity Evaluation
- 著者:
- Yohei Cho*, Osamu Tagami, Kyo Yanagiyama, Kazuma Gotoh, Emi Sawade, Toru Wada, Toshiaki Taniike*
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