二酸化炭素を”役立つ物質”に変える技術革新!鍵は新しい触媒の探索手法にあり!

2025年6月3日 公開

機械学習を活用して、変換を助ける「触媒」の設計がぐっと簡単に

どんな研究?

地球温暖化は、私達が直面している重大な問題の一つです。その原因とされる温室効果ガス、特に二酸化炭素(CO2)をどう減らすか、またはどう有効に活用するかは、大きな課題となっています。これまでにも、電気の力を使ってCO2を役に立つ別の化学物質、例えば燃料となるメタンCH4や多くの日用品に応用されているポリエチレンの原料であるエチレンC2H4などに変換する電解還元※用語1という方法が研究されてきました。そして、電解還元の効率を決定づけるのは、金属電極などの電極触媒材料です。研究者たちは、100年以上も「よりよい材料」を追い求めてきました。しかしそこには、まだまだ改良の余地があるのが現状です。

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中でも、CO2を効率よく変換する触媒として有力な候補のひとつとされているのが、複数の金属と硫黄からできた複合金属硫化物です。ただし、このような材料は、複数の物質の組み合わせによる複雑な相互作用を予測するのが難しく、どれが良い触媒なのかを見極めるのに時間も手間もかかっていました。
そこで、物質理工学院材料系の山口晃准教授らの率いる研究グループは、機械学習※用語2を活用して、より効率的に触媒の性能を予測分析する方法を開発しました。その結果、複合金属硫化物の構造と触媒性能の間にある重要な関係を見つけることに成功し、今後の触媒開発に役立つ手がかりを得ました。

ここが重要

研究グループは、まず、18種類の複合金属硫化物を用いて、どの材料がCO2の変換に優れているかを実験で調べました。その結果、ZnIn2S4(亜鉛・インジウム・硫黄の化合物)が特に高い一酸化炭素COへの変換効率を持っていることがわかりました。さらに、そこで得られたデータを機械学習にかけて分析したところ、これまで注目されていた構成元素そのものよりも、物質の結晶の形や構造の方が、触媒の性能に強く関係していることが明らかになりました。
この発見はとても重要です。なぜなら、触媒の性能に関わる構造的な特徴を知ることで、これまでよりずっと効率よく新しい触媒を設計できるようになるからです。さらに、機械学習を使うことで、時間をかけずに多くの材料の特徴を予測分析することが可能になります。つまり、CO2を効率よく変換するための触媒開発が、今後ぐんと加速すると期待されています。

今後の展望

今回の研究では、CO2の有効活用の手段として注目されている金属硫化物を用いたCO2還元について、どのような特性が触媒として重要なのか明らかになりました。これにより、CO2を資源として活用できる新しい材料の開発につながると期待されています。
また、この研究で用いられた機械学習は、目的に応じて欲しい材料を探索する時に、その候補を効率よく探索するツールとして注目を集めています。しかし、現実の材料開発では候補材料を実際に合成して、本当に予測通りなのかを確認しなければなりません。いかにして効率よくこの確認までを行うのかは、今回開発した予測分析手法を適切に組み合わせられるかどうかにかかっています。この努力によって、機械学習に基づく材料開発は、今後さらに発展し、金属硫化物以外の触媒のみならず、世の中を変えるさまざまな材料開発に欠かせないツールになっていくと期待されています。

研究者のひとこと

地球温暖化への対策の一つとして、CO2を役に立つ物質に変換して活用することはとても重要な課題です。
本研究をもとに、今後CO2変換を促進する触媒の研究が加速して、脱炭素社会の実現に近づくことを期待しています。

山口晃准教授

用語説明

※ 用語1. 電解還元 : 電解質の水溶液に一対の電極を入れて電流を流し、電極面に化学変化を起こさせる電気分解(電解)において、マイナス極(陰極)側では還元反応が起こります。この還元力を利用して物質合成を行う方法を電解還元といいます。電極の材質や電流の密度、温度などの条件により還元力を調整でき、各種化合物の合成に広く用いられます。

※ 用語2. 機械学習:大量のデータからコンピューターが自動的に学習し、ルールやパターンを発見する技術。

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