RA協議会第12回年次大会でランチョンセミナー「起業家育成を超えて」を開催

2026年10月14日 公開

2026年9月29日、横浜国立大学で開催されたリサーチ・アドミニストレーション協議会(RA協議会)第12回年次大会において、東京科学大学(Science Tokyo) アントレプレナーシップ教育機構主催のランチョンセミナー「起業家育成を超えて:Science Tokyo アントレプレナーシップ教育機構の活動紹介」を開催しました。全国の大学・研究機関からリサーチ・アドミニストレーター(URA)をはじめとする研究マネジメント人材が参加し、大学におけるアントレプレナーシップ教育の意義と可能性について、政策・実践・教育設計という3つの視点から議論が交わされました。

登壇者集合写真
左から、原田隆特任教授(本学アントレプレナーシップ教育機構)、千葉のどか氏(株式会社BitaP 代表取締役)、溝田岳氏(文部科学省 科学技術・学術政策局 産業連携・地域振興課 産業連携推進室長)、蒲池利章教授(本学アントレプレナーシップ教育機構 機構長)

広義のアントレプレナーシップ教育 ─アントレプレナーシップ教育機構の活動紹介

はじめに、蒲池利章 アントレプレナーシップ教育機構 機構長が、同機構の理念と活動を紹介しました。

蒲池機構長は、東京科学大学ではアントレプレナーシップ教育を広義に定義していることを説明し、目指すのは「起業家育成教育」ではなく「社会の多様な現場で新しい価値を創造できる人材を育成する教育」であると述べました。本学理工学系では、教養教育・専門教育と並ぶ柱としてアントレプレナーシップ教育を位置づけ、理工学系の全学生を対象に展開しています。

教育プログラムではフィールドワークや異文化課題解決型学習など、現場に立つ機会を重視していること、学内外の講演会やワークショップを機構認定講座として認定し、参加した学生が単位取得にもつながる「アントレポイント」を獲得できる仕組みも運用していることが報告されました。さらに、修了生・学生・教職員がつながるコミュニティ「人材の泉」を形成し、修了生による講義や現地実習、コミュニティフォーラムの開催などに取り組んでいることも紹介されました。

講演する蒲池機構長

科学技術・イノベーション政策における位置づけ

続いて、文部科学省 科学技術・学術政策局 産業連携・地域振興課 産業連携推進室長の溝田岳氏から、科学技術・イノベーション政策の中でアントレプレナーシップ教育が重視されている背景と、期待される人材像についてご説明いただきました。

溝田氏は、文部科学省も広義のアントレプレナーシップ教育を目指しているとしたうえで、その力は起業家に限らず、変化の激しい社会を生き抜くうえですべての人に必要なものであると述べました。アントレプレナーシップ教育を受けた学生が文部科学省に入省した事例も紹介され、この教育の広がりが進路の多様さに表れていることが示されました。

施策としては、大学プラットフォームを通じた大学生向けの教育、大学の知見を生かした小中高生向けの教育、文部科学大臣が任命するアントレプレナーシップ推進大使の小中高校への派遣、官民連携の枠組みである Japan Entrepreneurship Alliance(JET-ALL)などが挙げられました。

講演する文科省 溝田氏

研究から起業へ ─当事者が語る大学での学び

最後に、東京科学大学認定ベンチャーである株式会社BitaP 代表取締役の千葉のどか氏から、起業に至るまでの経緯と事業内容をご紹介いただきました。千葉氏は本学の修了生です。

千葉氏は、起業という選択肢が現れたのはアントレプレナーシップ教育のおかげだといいます。授業科目の一つであるリーン・ローンチパッド・プログラムで出会った講師や仲間が起業を身近なものにし、「あなたにとってリーダーシップとは何か」と問われ続けた経験も、間接的な後押しになったと振り返りました。

講演の結びでは、出会いや学びという多様な「点」がアントレプレナーシップ教育によってつながり、「線」や「面」になっていると、自身の歩みを振り返りました。

講演するBitaP 千葉のどか氏

パネルディスカッション

3件の講演の後、「アントレプレナーシップ教育をいかに浸透させていくか」「学内外の担い手をどう確保し、活動を継続させていくか」「学びを実践に移すきっかけは、どこまで設計できるか」の3つのテーマについて、パネルディスカッションを行いました。

浸透について、溝田氏は文部科学省の調査結果をふまえて、アントレプレナーシップ教育の実施機関と受講者数は着実に増えており、今後は質の向上にも取り組むことが必要であることを指摘されました。蒲池機構長からも、学内での認知は広がってきたものの、今後は質をいかに高めるかが課題だと述べた上で、教育はすぐに効果が出るものではなく、目標を持って学ぶか押し付けられて学ぶかで効果が大きく変わると指摘しました。千葉氏は、学生だからこそ受けられる機会であることを、もっと前面に出すとよいと提案しました。

担い手について、蒲池機構長は、修了生だけのコミュニティは作りやすいものの、それ以外も含めたコミュニティの形成は難しく、リサーチ・アドミニストレーターや省庁の支援が欠かせないと述べました。溝田氏も、話し合える環境としてのコミュニティ形成が大事であるとしたうえで、人材確保は日本全体の課題であり、大学や地域を含むエコシステムの中で補完し合うことが重要だと語りました。

きっかけの設計については、千葉氏が、新しいことに寛容で積極的な教員や研究者、学生が集まる場は設計できるのではないかと述べました。溝田氏は、確率の高いディープテックなどに投資を集中すべきという意見もあるなかで、裾野を広げるほうが可能性は高まるのではないかと語りました。

パネルディスカッションの様子

本学認定ベンチャー監修によるお弁当

本学の研究成果が社会に還元されている姿を、参加者の皆様に言葉だけでなく体感していただきたいと考え、本学認定ベンチャーであるBitaP社にお弁当のコンセプト設計・レシピ開発・提供をお願いいたしました。参加者に研究成果の社会実装を通じて人々を幸せにしていくという本学の姿勢を体感いただけたと考えております。

本学認定ベンチャー監修によるお弁当

おわりに

本セミナーでは、学生・起業家の目線からの意見に対し、教育プログラムを設計する大学と、国の政策をつくる文部科学省がそれぞれの立場からコメントを返すなど、率直でインタラクティブな議論が交わされました。

アントレプレナーシップ教育は、すぐに成果が見えるものではありません。それだけに、千葉氏が講演の結びで語った、出会いや学びという点がアントレプレナーシップ教育によってつながり、線や面になっていくという言葉が印象に残ります。

大学統合を経た今、学生が触れることのできる世界は一段と広がりました。大学が機会を用意するだけでなく、学生自身も積極的に学内のプログラムに参加し、研究室や大学の外へ足を運んで、選択肢を増やしていくことが重要になるでしょう。アントレプレナーシップ教育機構は、引き続きその「点」を増やす場の設計に取り組んでまいります。

お問い合わせ

東京科学大学 アントレプレナーシップ教育機構 人材エコシステム連携室