植物が「可動性DNA」を選択的に不活化するメカニズムを解明

2026年7月24日 公開

エピゲノム編集技術などへの応用に期待

ポイント

  • 植物が可動性DNA「トランスポゾン」だけを不活化する仕組みに、ヒストンバリアントと呼ばれる染色体構成タンパク質が関与していることを発見
  • ヒストンバリアントの欠損植物変異体にDNAメチル化を再導入する実験で、ヒストンバリアントによるDNAメチル化の位置の制御をゲノムワイドに解明
  • エピゲノム編集技術の開発を通した植物育種や疾患治療への応用に期待

概要

東京科学大学(Science Tokyo)生命理工学院 生命理工学系の藤泰子准教授と小田頌子研究員らの研究チームは、植物がゲノム[用語1]内の可動性DNA「トランスポゾン[用語2]」を選択的に不活化する仕組みに、染色体を構成するタンパク質であるヒストン[用語3]のうち、性質が少し異なる「ヒストンバリアント[用語4]」が関わっていることを明らかにしました。

動植物のゲノムに多く含まれるトランスポゾンは、遺伝子の破壊やがんなどの病気の原因となるため、多くの生物はエピジェネティクスの仕組みによってDNAメチル化[用語5]することで働きを抑えています。しかし、ゲノムの中でトランスポゾンだけを選び出して不活化する仕組みは、これまで十分に分かっていませんでした。

本研究では、2種類のヒストンバリアント(H2A.WとH2A.Z)がこの選択的な制御に関与していることを、ヒストンバリアントの欠損植物変異体でDNAメチル化をリセットする実験によって発見しました。H2A.Wはトランスポゾンに結合してDNAメチル化を促し、不活化を進めるのに対し、H2A.Zには不活化を抑える役割があります。またH2A.Zは主に遺伝子領域に存在し、重要な遺伝子が誤って不活化されるのを防ぐ働きも担っていることが分かりました。さらにこれらの作用は遺伝子が多い領域で特に強く表れることも明らかになりました。

ヒストンバリアントの機能は生物の進化の中で保存されることも多いため、本研究の知見は植物にとどまらず、動物にも応用できる可能性があります。将来的には、特定の遺伝子の働きを狙ってエピジェネティックに制御する「エピゲノム編集技術」として、植物の品種改良や病気の治療への応用が期待されます。
本成果は、6月30日付(現地時間)の「Nature Communications」誌に掲載されました。

背景

動植物のゲノムには、「トランスポゾン」と呼ばれる可動性のDNA配列が数多く含まれています。トランスポゾンは、遺伝子の破壊やゲノムの不安定化、さらには疾患などの原因となることが知られています。このため、多くの生物は「エピジェネティクス」と呼ばれる仕組みを使い、トランスポゾンの働き(発現)を抑えています[参考文献1]。植物では、DNAにメチル基を付加した「DNAメチル化」が、トランスポゾンの抑制における目印という重要な役割を果たします。特に、「非CGメチル化」と呼ばれる特定のDNA配列のメチル化は、植物ではトランスポゾンのみに蓄積して、その働きを抑えることが知られています。しかし、植物がどのようにしてトランスポゾンだけを選び出して非CGメチル化するのか、その仕組みは十分に解明されていませんでした。

研究成果

植物がトランスポゾンのみを非CGメチル化する仕組みを理解するため、研究チームは、H2A.WとH2A.Zという2種のヒストンバリアントに着目しました(図1)。先行研究から、H2A.Wはトランスポゾン領域に特異的に局在し、H2A.Zは遺伝子領域に局在することが知られています[参考文献2]

図1. ヒストンバリアント
細胞核内で、DNAは4種類のヒストンタンパク質(H2A、H2B、H3、H4、各2分子ずつ)に巻きつき、クロマチンの基本単位であるヌクレオソームを形成している。一部のヌクレオソームは、基本型のヒストンではなく、ヒストンバリアント(少し性質の異なる派生型ヒストン)を持つ。基本型であるH2A(左)のヒストンバリアントには、H2A.WやH2A.Z(右)などが知られる。

そこで本研究では、この2種のヒストンバリアントが、非CGメチル化の標的選択に関わるかどうかを検証しました。具体的には、H2A.WまたはH2A.Zを持たない植物変異体を作製し、これをもとに、トランスポゾンの不活化に重要な非CGメチル化をリセット(消失と再導入)する実験系[参考文献3]を構築して、その再導入過程におけるヒストンバリアントの影響をゲノムワイドに解明しました。その結果、H2A.Wがトランスポゾンにおける非CGメチル化を促進する一方で、H2A.Zは非CGメチル化を抑制しており、局在と機能の両面で拮抗していることが明らかになりました。さらに、遺伝子領域に局在しているH2A.Zは、誤って非CGメチル化が生じないように遺伝子を保護していることも示されました。

こうした作用は、トランスポゾン密度が高いゲノム領域では弱く、遺伝子密度の高いゲノム領域においてより顕著に現れました(図2)。これらの結果は、遺伝子密度の高いゲノム領域において、機能面で互いに拮抗関係にあるH2A.WとH2A.Zが、それぞれトランスポゾンと遺伝子に特異的に局在し、相反する効果で非CGメチル化の標的選択を制御していることを示唆しています。

図2. ヒストンバリアントが非CGメチル化の導入場所を制御するモデル
植物のゲノムには、トランスポゾンの密度が高い領域と、遺伝子の密度が高い領域がある。遺伝子の密度が高いゲノム領域では、トランスポゾンに局在するH2A.Wがトランスポゾンの非CGメチル化を促し、遺伝子に局在するH2A.Zは非CGメチル化が遺伝子に誤って行われるのを防ぐ。

今後の展開

本研究により、植物においてDNAメチル化によって目印がつけられる場所の選択に、ヒストンバリアントが重要な役割を果たしていることが明らかになりました。ヒストンバリアントによるゲノム機能の制御は、植物に限らず、動物にも共通するシステムです。特に、本研究で遺伝子をDNAメチル化による抑制から保護する働きが示されたH2A.Zは、酵母から動物や植物に至るまで広く保存されています。このことから、本研究で明らかになった制御機構は、他の生物にも共通する仕組みである可能性があります。

 さらに本成果は、ゲノムの中でトランスポゾンを抑えつつ遺伝子を活用する仕組みの理解を大きく前進させるものであり、ゲノム中の特定の領域に狙いを定めてDNAメチル化を導入し、遺伝子発現を制御する「エピゲノム編集技術」の開発につながります。将来的には、疾患治療や、機能性の高い植物の育種など、幅広い分野への応用が期待されます。

付記

本研究は、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)による創発的研究支援事業(FOREST)(JPMJFR224X)、さきがけ(PRESTO)(JPMJPR20K3)、CREST(JPMJCR20S)、日本学術振興会(JSPS)による科学研究費助成事業(KAKENHI)(17K15059、19H05740、21H04977、22K06180、24H01351、24K02077、24K02002、25H01299、25K02258、25H02544、25H01300)および特別研究員奨励費(23KJ0740)の支援を受けて行われました。

参考文献

[参考文献1]
To, T. K. & Kakutani, T. Crosstalk among pathways to generate DNA methylome. Curr. Opin. Plant Biol. 68, 102248 (2022). DOI: 10.1016/j.pbi.2022.102248
[参考文献2]
Yelagandula et al. The histone variant H2A.W defines heterochromatin and promotes chromatin condensation in Arabidopsis. Cell 158:98-109. DOI: 10.1016/j.cell.2014.06.006
[参考文献3]
To, T. K. et al. RNA interference-independent reprogramming of DNA methylation in Arabidopsis. Nat. Plants 6, 1455–1467 (2020). DOI: 10.1038/s41477-020-00810-z

用語説明

[用語1]
ゲノム:特定の生物が持つ遺伝情報の全体。
[用語2]
トランスポゾン:ゲノム上の位置を移動する可動性のDNA配列。転移因子とも呼ばれる。ヒトの場合、ゲノムの約半分を占める。
[用語3]
ヒストン:細胞核内でDNAを巻きつける土台となるタンパク質で、4種類のヒストン(H2A、H2B、H3、H4)が2分子ずつ組み合わさって機能する。
[用語4]
ヒストンバリアント:基本となるヒストンのアミノ酸配列が一部異なる、派生型のヒストンタンパク質。ゲノム上の特定の領域に局在し、ゲノムの安定化や遺伝子発現制御などにはたらく。H2A.Zなど進化的によく保存されたヒストンバリアントもある一方で、特定の生物種に特異的なヒストンバリアントもある。
[用語5]
DNAメチル化:DNAにメチル基がついたもの。真核生物では、多くの場合シトシン(C)の5位がメチル化される。哺乳類ではCの隣がグアニン(G)であるCG配列が主にメチル化される。植物では、それ以外のシトシンもメチル化され、非CGメチル化と呼ばれる。

論文情報

掲載誌:
Nature Communications
タイトル:
Antagonistic histone H2A variants and autonomous heterochromatin formation shape epigenomic patterns in Arabidopsis
著者:
Shoko Oda, Sayaka Tominaga, Shumpei Takeuchi, Akihisa Osakabe, Akira Kawabe, Frédéric Berger, Tetsuji Kakutani, Taiko Kim To

研究者プロフィール

藤 泰子 Taiko Kim To

東京科学大学 生命理工学院 生命理工学系 准教授
研究分野:分子生物学、遺伝学、ゲノム科学

藤 泰子 准教授

小田 頌子 Shoko Oda

東京科学大学 生命理工学院 生命理工学系 研究員
研究分野:分子生物学、遺伝学

小田 頌子 研究員

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