磁石の中で電流が向きを変える理由

2026年3月20日 公開

スピンのねじれが生み出す「異常ホール効果」のしくみを解明

どんな研究?

金属に電流を流すと、ふつうはその流した向きに沿ってだけ電圧が生まれます。ところが、ある磁石の中では、流した向きとは直角方向にも電圧が現れることがあります。これを「異常ホール効果」といいます。

カギを握るのは、電子が持つ「スピン」という小さな磁石の向きです。三角形が連なった「カゴメ格子」という構造では、スピンがきれいにそろわず、少しずつねじれた配置をとります。このねじれが電子の通り道をゆがめることは知られていましたが、温度や電子の数の多さ(電子の詰まり方)を変えると、異常ホール効果によって生じる横ずれが強くなったり弱くなったりし、さらに向きまで変わります。こうした現象がなぜ起きるのかは、これまでよくわかっていませんでした。

カゴメ格子(石塚大晃准教授提供)

そこで東京科学大学(Science Tokyo)の石塚大晃(いしづか・ひろあき)准教授らは、学習院大学の宇田川将文(うだがわ・まさふみ)教授と共同で、電子がスピンにぶつかりながら進む様子を理論的に計算しました。最も難しかったのは、近くのスピンと少し離れたスピンが互いに影響しあうため、単純な説明では整理できないという点でした。

研究チームは、ばらばらに見えていた現象を一つの式で説明することを目指しました。そして、横ずれの大きさを表す式を初めて導くことに成功しました。

ここが重要

大きな成果は、横ずれの向きが変わる理由を、電子の「波」としての性質から説明したことです。電子は粒であると同時に波でもあり、波には強まる場所と打ち消し合う場所があります。電子の詰まり方が変わると、この波のリズムも変わり、その結果、横ずれの向きが切り替わることを示しました。

また、温度による複雑な変化の原因も明らかにしました。近くのスピン同士の結びつきと、少し離れたスピン同士の結びつきが同時に働いていることで、単純な増減ではない変化が生まれます。さらに、互いに逆向きになろうとする性質をもつ磁石では、強い磁場をかけたときに向きの逆転が起こりやすいことも示しました。

今後の展望

この理論は実際の物質にも応用できます。磁石の強さを測るだけではわからない内部の状態を、電気の流れ方から読み取る手がかりになります。将来は、電子の電荷だけでなくスピンも利用する新しい電子技術への応用も期待されます。

研究者のひとこと

磁石を流れる電流は、物質の中で起きているスピンの振る舞いを詳細に映し出していると思っています。そして、そのサインを読み解くことで、新しい材料づくりへの第一歩につながると考えています。
(石塚大晃:東京科学大学 理学院 物理学系 准教授)

石塚大晃准教授

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