植物の「声」を聞き続けるナノ薄膜電極

2026年6月16日 公開

雨の中でも長期間、植物の電気信号を捉え続ける超薄膜電極を開発

どんな研究?

真夏の畑で、葉っぱがしおれかけている。そんな異変に気付いたときには、すでに植物に大きなストレスがかかっていることも少なくありません。

実は植物は、乾燥や暑さ、病気などのストレスを受けると、ごく小さな電気信号を発しています。もしその植物の「声」をリアルタイムで聞くことができれば、植物の病気の早期発見や効率的な農業につながると期待されています。

そこで、植物の電気信号を測る技術として様々なタイプの電極が開発されてきました。たとえば、針を刺すタイプの電極は感度が高いのですが、植物を傷つけてしまう難点がありました。それに対して、ゼリー状の電極は、柔らかく植物に密着しますが、雨に弱く、屋外では使いにくいという問題がありました。また、薄いフィルム型電極も開発されましたが、大豆、ナス、カボチャなど多くの植物の葉にあるトライコームと呼ばれる細かな毛(図1)が邪魔になり、葉にぴったり貼りつけることができず、電気信号をうまく読み取れないという難点がありました。

Elena Shishkina/Shutterstock.com

そこで東京科学大学(Science Tokyo)の藤枝俊宣(ふじえ・としのり)教授らの研究チームは、新しいタイプの超薄型電極の開発に挑戦しました。藤枝教授らは、電気をよく流す性質を持つタイプのカーボンナノチューブとそれを支えるエラストマー(ゴムのような弾性をもつ柔らかい高分子材料)に着目しました。これらを組み合わせて極めて薄い電極をつくれば、植物の葉にある細かな毛がこの薄層を突き抜けて、カーボンナノチューブの電極がぴったりと葉に寄り添うのではないかと考えたのです。

図1:植物の葉の表面にある細かな毛、図2:電極の厚さが厚いと、葉の表面の毛が電極を押し上げる、図3:電極が超薄膜になると、植物の毛が薄層を突き抜け、葉の表面に密着する)

ここが重要

この研究で特に面白いのは、「電極の厚さ」が植物との密着性を決めることを初めて明らかにした点です。研究では、従来の薄膜電極に近い480ナノメートルの膜から、70ナノメートルの超薄膜まで、段階的に電極を薄くしながら、植物との密着の度合いを比較しました。その結果、厚い電極は葉の毛に押し上げられて浮いてしまいます(図2)が、70ナノメートルまで薄くすると、植物の細かな毛が膜を突き抜け、薄膜が葉の表面にぴったり密着する(図3)ことがわかりました。

さらに、この電極は透明で光を80%以上通すため、光合成をほとんど邪魔しません。加えて水をはじく性質があり、激しい雨や水中でもはがれにくく、2か月以上、最長で10か月も安定して植物の信号を測定することができました。

従来の技術では、「電極が植物を傷つける」「材質の性質上、雨に弱い」といった問題がありましたが、今回の研究は、その課題を克服した点で大きな意味があります。

今後の展望

この技術は、未来のスマート農業を支える重要な基盤になると期待されています。例えば、植物が水不足や病気のサインを出した瞬間を検知できれば、必要な場所にだけ水や肥料を与える効率的な農業が可能になります。研究ではすでに、除草剤によって光合成が妨げられた状態を電気信号として検出することにも成功しています。

世界的に人口増加による食料不足や気候変動による収穫量減少が懸念される中、トマトやナス、豆類など、葉に毛を持つ重要な作物を長期間見守れるこの技術は、安定した食料生産にも役立つ可能性があります。

研究者のひとこと

みなさん、誰しも一度は「植物の声を聞けたらなぁ」と考えたことはなかったでしょうか?この研究は、その願いを叶える第一歩です。植物は一見静かに見えますが、実は常に電気信号を発して環境の変化に応答しています。今回の研究によって、その小さな変化を長期間、しかも植物に負担をかけずに測れるようになりました。将来は、植物自身が「元気だよ、調子が悪いよ、のどが渇いたよ」などと知らせてくれる時代が来るかもしれません。
(藤枝俊宣:東京科学大学 生命理工学院 生命理工学系 教授)

藤枝俊宣教授

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