結果から原因を考える――AIは半導体の内部をどう読み解くのか

2026年8月25日 公開

2つのニューラルネットワークで、材料の状態を1ミリ秒未満で高精度に推定

どんな研究?

同じような味の料理でも、使った材料や調味料の配合は一通りではありません。完成した味だけから、そのレシピを正確に言い当てるのが難しいように、ものづくりの世界でも、一つの測定結果から内部の状態を逆算するのが難しい場合があります。

スマートフォンやテレビの画面などに使われる半導体も、その一例です。測定した電気の流れ方がほとんど同じでも、材料中の欠陥の多さや電子の動きやすさは異なることがあります。そのため、測定結果から内部の状態を逆算することは簡単ではありません。

従来は、材料の内部がこうなっているはずだ、と仮定しては計算で確かめ、合わなければ仮定を変え、また確かめる、というやり直しを繰り返していました。1つの答えにたどり着くのに、何日もかかることがしばしばありました。そこで、近年は機械学習による高速化が検討されるようになっています。

DC Studio/Shutterstock.com

ですが、こういった問題はAIを使って簡単に解けるわけではありません。1つの測定結果に対して、原因にあたる材料の状態がいくつも考えられるためです。1つの問題に対して答えがいくつもあると、AIは学習の段階で混乱してしまうのです。このため、従来の機械学習では、欠陥の多さや電子の動きやすさが大きく異なるデバイスを幅広く解析することが、一筋縄ではいきませんでした。

ここが重要

東京科学大学(Science Tokyo)の井手啓介(いで・けいすけ)助教、大学院生(当時)の木村公俊(きむら・まさとし)さん、神谷利夫(かみや・としお)教授らの研究チームは、この「答えがいくつもある」という難しさを乗り越えるために、2つのニューラルネットワークをつないだタンデムニューラルネットワークを用いて新しい仕組みを構築しました。

この仕組みでは、1つ目のネットワークが、測定結果から材料内部の状態を推定します。続いて2つ目が、その推定した状態から元の測定結果を再現できるかを確かめます。いわば、原因を推理するAIと、その推理で現象を本当に説明できるか答え合わせをするAIの組み合わせです。

この仕組みにより、欠陥の多さや電子の動きやすさなどが大きく異なる状態の半導体について、材料の状態を表す複数の数値を高い精度で推定できました。しかも、解析時間は1ミリ秒未満です。従来は1つの答えにたどり着くのに何日もかかることがあったため、解析時間を飛躍的に短縮できました。

さらに研究チームは、実際に作製した半導体デバイスでもこの方法を検証しました。その結果、AIが推定した値を使うだけで、実際の測定結果をよく再現できました。

また、従来研究のおよそ100分の1にあたる400件程度の学習データでも、高い精度が保たれました。学習データの作製にも時間がかかるため、少ないデータで性能を発揮できることは、実用化に向けた利点となります。

今後の展望

この技術が発展すれば、半導体工場で大量の測定データをすばやく解析し、製造条件のずれや材料状態の変化をその場で把握できる可能性があります。実際の製造工程をコンピューター上に再現するデジタルツインや、AIが実験と解析を自動で進める自律実験システムへの応用も期待されます。

また、1つの結果に複数の原因が考えられる問題は、材料、化学、光学など、さまざまな研究分野にあります。今回の方法は、原因を逆算する難問を解くための幅広い手がかりになる可能性があります。

研究者のひとこと

以前、半導体トランジスタの工場の生産部にいたころ、吊り下げられた大きなモニターに大量生産品の検査の結果がリアルタイムで流れ続けるのを、毎日眺めていました。当時はどれだけ電流が流れるか、どのくらいの電圧で動くか、といったトランジスタの性能指標を見守るのが精いっぱいでした。

今回の技術が進めば、半導体材料の内部の状態を示す物性値を即座に抽出でき、モニタリングできるようになるかもしれません。たとえば酸素が足りなさそうだといった見当がつけば、生産プロセスへのフィードバックも早くなります。開発と生産のループに物性レベルの視点を取り入れられることが、これからの自律実験による研究・開発を加速する一つの鍵になると考えています。
(井手啓介:東京科学大学 総合研究院 元素戦略MDX研究センター 助教)

応用物理学会で講演奨励賞を受賞した木村公俊さん(左)と井手啓介助教(右)。受賞後の帰路にて

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