どんな研究?
現在、普及が進んでいる第5世代移動通信システム(5G)よりもさらに大容量で高速通信が可能になる第6世代(6G)の実現に向け、研究開発が盛んに進められています。6Gでは100 GHzを超える周波数帯を利用し、最終的には300 GHzの使用までが見込まれています。こうした高い周波数の利用により、高速・大容量の無線データ伝送性能が飛躍的に向上することが期待されています。しかし、このような帯域では、信号が減衰や干渉によって歪みやすくなり、また電波の届く範囲が狭いため、混雑した都市部では信号品質の低下が懸念されています。
高速の移動通信に対応するためには、優れた誘電特性を持つ絶縁材料が必要です。しかし、ガラスやセラミックをベースとした絶縁体は高価で、製造プロセスも複雑になります。そのため、6Gの期待性能を満たす、低価格で加工が容易な新しい低誘電材料(電気エネルギーをほとんど蓄えず、損失が少ない材料)の開発が求められています。
物質理工学院の安藤慎治教授と劉浩男助教らの研究チームは、高周波数帯で安定に動作し,耐熱性・機械特性に優れた低誘電材料候補として、ポリイミドと呼ばれるポリマー(規則的な繰り返し単位からなる、分子量の大きな分子)に着目しました。25~330 GHzの周波数帯で、11種類のポリイミドを対象に、低誘電材料の性能を左右する重要な指標である誘電率(材料の絶縁性を示す)と誘電正接(エネルギー損失の大きさを示す)を測定しました。
ここが重要
安藤教授・劉助教らは、11種のポリイミドの誘電率と誘電正接を測定しました。その結果、全てのポリイミドで、周波数が高くなるほど誘電率が低下し、エネルギー損失は一貫して増加することがわかりました。また、フッ素を含むポリイミド、特にPFAS規制の対象外と考えられる全フッ素化ポリイミドは、他のポリイミドよりも誘電率が低く、かつエネルギー損失も低いことも示されました。
この研究では、ポリイミドの化学構造とその誘電特性の相関を明らかにしています。これは、6Gの期待性能を満たす高性能ポリマー絶縁材料の開発に貢献する成果です。
今後の展望
本研究成果は、高周波数帯でも高い信号品質を維持でき、安価かつ高性能な低誘電ポリマー材料の設計・実用化に役立つ知見であり、次世代移動通信技術の発展に大きく貢献すると期待されます。
研究者のひとこと
今回、25~330 GHzの高周波数帯において、多様な構造を有するポリイミドの化学構造と誘電特性の相関について新たな知見が得られたことは、この研究の大きな成果です。この成果を基盤としてさらに研究を発展させることで、6G技術向けの高性能ポリマー系絶縁材料の開発につながると考えています。
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