安価な鉄からなる触媒で化学製品の原料を合成

2025年3月25日 公開

低級アルカンをアルコールへと高効率で変換

どんな研究?

わたしたちが普段から使っている医薬品、化粧品、防腐剤、合成ゴムなど、多くの製品の製造には、アルコールやカルボン酸(「カルボキシ基(―COOH)」という部分を持つ有機化合物)が原材料として使われています。これらの原材料は主に石油から生成されますが、石油を利用した場合の環境負荷を考慮して、石油以外の物質を利用する方法が求められています。

石油に代わるアルコールの原材料物質として注目されているのが、安価で入手しやすい「低級アルカン」(図1)です。低級アルカンは炭素(C)と水素(H)でできている有機化合物のうち、炭素の数が少ない化合物のことを指し、図1にあるようにメタン、エタン、プロパン、ブタンがその具体例です。低級アルカンがもつ水素(H)が酸素(O)で置き換わることを「酸化する」と言い、酸化によってアルコールが生成されます。しかし、炭素(C)と水素(H)は非常に強く結合しているので、この結合を切って酸化させるには化学的に大きなエネルギーが必要です。

このような背景のもと、低級アルカンの一種であるイソブタンを低エネルギーで酸化し、高効率でターシャリーブチルアルコール(図2)と呼ばれるアルコールを生成する触媒*用語1の開発に成功したのが、総合研究院 フロンティア材料研究所の鎌田慶吾教授らの研究チームです。

図1 低級アルカン( CnH2n+2)の具体例, 図2 ターシャリーブチルアルコール

ここが重要

鎌田教授の研究チームは長年にわたり、有機化合物の化学反応を低エネルギーでも進められる固体触媒の研究開発を進めてきました。今回の研究では、イソブタンからターシャリーブチルアルコールを生成するための固体触媒として、ペロブスカイト酸化物*用語2を新たに開発しました。ペロブスカイト酸化物は、鉄を含んでいますが、この鉄が触媒として機能し、イソブタンのC-H結合を切り離し、酸化作用を促します。その結果、ターシャリーブチルアルコールが効率的につくれることが実験からわかりました。

今後の展望

ペロブスカイト酸化物は、これまでも触媒として利用されていましたが、排ガスの浄化が主要なケースでした。しかし、今回の研究で新たな利用方法が開発されたことで、今後は、有用な化学製品を合成するための触媒としての応用が期待されます。石油の代わりに低級アルカンから化学製品を作ることができれば、CO2の排出低減にも大きく貢献できます。

研究者のひとこと

これまで我々の研究チームは、自然界に豊富にある物質を使ってリサイクル可能な固体触媒の研究開発を進めてきました。今後も今回の研究成果を踏まえ、様々な有機化合物に対応可能な安価でクリーンな化学反応を促進する固体触媒の研究開発を進めることで、持続可能な社会の実現に貢献していきます。

鎌田教授(後列左から2番目)と鎌田研究室メンバー
  • 用語1. 触媒:それ自身は変化せず、化学反応を促進する物質。
  • 用語2. ペロブスカイト酸化物:金属の原子と酸素の原子が「ブロック」のように規則正しく並んだ結晶構造をもつ物質。太陽光発電、燃料電池など、さまざまな技術で使われています。

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