どんな研究?
世界の研究者は現在、化石燃料からの脱却を目指して次世代エネルギー技術の開発に取り組んでいます。中でも、水素を次世代のクリーンエネルギー源として利用することは、CO2削減にむけて最も有効な解決策のひとつだと考えられています。
しかし、水素ガスを安全に貯蔵し輸送することは極めて難しく、多くの分野で水素利用が進んでいません。
そこで、近年、注目を集めているのがアンモニアです。液体のアンモニアは、液体の水素と比べて、同じ体積で約1.7倍の水素を含むことができるため、効率的な「水素貯蔵庫」として利用できると考えられています。そこで、アンモニアを高密度で貯蔵し、しかも、繰り返し安定に吸脱着ができる材料の開発が社会的に求められてきました。
しかし、アンモニアは塩基性を示し、他の物質や材料と反応しやすいために、安定した性能を持つ材料の開発が難しいという課題がありました。
このような背景のもと、東京科学大学(Science Tokyo) 理学院 化学系の小野公輔准教授を中心とする研究チームは、化学的に安定なリング状の化合物である「オリゴフェニレンリング1a」を新たに開発しました。1aは、その内部に酸性のカルボキシ(CO2H)基を有し、固体中で積み重なって酸性の細孔(あな)を形成します。この酸性の細孔を有する単分子からなる吸着材料1Aを用いて、室温におけるアンモニアガスの吸脱着実験を行いました。
その結果、材料の劣化や吸着量の低下を伴うことなく、繰り返し安定にアンモニアガスを吸脱着できることが確認されました。吸着材料を再利用する際には、減圧下、数時間から1日程度加熱することが一般的ですが、小野准教授らの開発した新材料1Aでは室温下、1時間減圧するだけでアンモニアを完全に取り除くことができ、加熱の必要がなく、簡便に材料を再生できます。
ここが重要
今回開発された単分子材料「1A」は、アンモニアガスに対して安定な吸着材料として機能しました。従来の材料では、その合成に弱い結合形成が必要であり、アンモニアガスに対する安定性の問題を抱えていましたが、本材料は、化学的に安定なリングだけから構成されており、不安定性の問題を根本的に解決しています。
さらに、圧力を下げるだけで、材料中のアンモニアをすべて放出でき、材料を簡便に再生することも可能です。従来の材料では、圧力を下げるだけでは吸着されたアンモニアをすべて放出することは難しく、長時間の加熱を必要とし、材料の再生時にエネルギーが必要になってしまうのが課題でした。
このように小野准教授らの開発したアンモニア吸着材料は、「安定性」、「再生」の面で大きなアドバンテージがあり、今後の利用が大いに期待されます。
今後の展望
小野准教授らの研究グループは、「オリゴフェニレンリング」の構造をさらに改良することによって、液体アンモニア以上の密度でアンモニアを吸着できる材料を開発することを検討しています。それによって、より効率的な「水素貯蔵庫」の開発の実現性が高まるでしょう。
研究者のひとこと
アンモニアは、その強い刺激臭や環境汚染物質としての側面から嫌厭(けんえん)されがちですが、肥料の原料として食料問題に深く関わってきた歴史的な分子です。近年は、水素の供給源、そして燃焼時にCO2を排出せずにN2とH2Oを生成するカーボンフリーの燃料として、再び注目されています。
長短あわせ持つアンモニアを安全に貯蔵・運搬できる材料の開発を通じて、カーボンニュートラル社会の実現に貢献したいと思っております。
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