どんな研究?
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重症化メカニズムの解明とそれに基づく治療法開発は依然として重要な課題です。COVID-19は多くの人に軽症や無症状で感染しますが、一部の患者では肺炎が重症化し、命を落とすケースが現在もなお発生しています。特に、体内で免疫システムが過剰に活性化し、制御不能な炎症反応を引き起こす「サイトカインストーム」と呼ばれる現象が重症化の原因であることが明らかにされています。しかし、この現象が起こる詳細なメカニズムや、どのような人が重症化しやすいかは、現在も解明のための研究が進められています。
2023年、東京科学大学(研究当時は東京医科歯科大学)の佐藤荘教授と光井雄一助教らの研究チームは、COVID-19が重症化するメカニズムを明らかにするため、過去の患者から採取した血液サンプルを解析し、その結果、肺の免疫を司る細胞である「肺胞マクロファージ」がウイルスの運び屋として重要な役割を果たし、重症化に関与していることを発見しました。COVID-19の重症化メカニズムをさらに明らかにし、将来的な感染症への備えとしても重要な成果です。
ここが重要
研究チームは、新型コロナウイルスが肺全体に感染を広げる際に、肺胞マクロファージがどのように関与するかを詳しく調べました。特に、ウイルスがACE2受容体を利用して感染する過程に注目し、炎症を抑える役割を持つサイトカイン「IL-10」の濃度が高い患者では、ウイルス感染が進行しやすいことを突き止めました。さらに、重症化しやすい遺伝的要素を持った患者に特有の新しいタンパク質を発見し、これを「CiDRE」(COVID-19 infectivity enhancing dual receptor)と命名して解析を行いました。このタンパク質は、遺伝子の異常な転写によって生まれ、肺胞マクロファージにおいてIL-10の働きを増幅し、ACE2受容体をより多く発現させてウイルスの感染をさらに進行させるだけでなく、ウイルス排除に重要なインターフェロンの働きを抑えることで、結果としてCOVID-19の重症化を促進することが示されました。この発見は、重症化リスクの高い患者を早期に特定するためのバイオマーカーとして活用できる可能性を秘めています。
今後の展望
今回の研究成果により、COVID-19が重症化するメカニズムがさらに解明されることが期待されます。特に、新たに発見された「CiDRE」タンパク質は、重症化リスクを早期に判断する手がかりとなる可能性があり、今後の診断技術や治療法の開発に大きく貢献することが期待されます。
研究者のひとこと
佐藤荘教授
COVID-19の重症化メカニズムを解明できたことは、チームにとって大きな一歩です。この発見により、重症化リスクの高い患者を早期に特定し、治療に役立てる可能性が広がりました。今回の成果は、今後の感染症対策にも応用できると期待しています。
光井雄一助教
重症化しやすいかどうかを事前に知っておくことで、重要化ハイリスクの人は定期的にワクチン接種を受けることや、感染時には早期にIL-10の働きを阻害するような治療を受けることで重症化を回避出来る可能性があります。このように、本研究成果がCOVID-19に対する個別化治療の発展に役立つことを期待しています。
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