脂質は脳梗塞でダメージを受けた脳神経を修復している

2024年10月23日 公開

脳の修復メカニズムにおいて、脂肪酸代謝により神経修復で働く遺伝子が発現することを発見

どんな研究?

脳卒中は、脳の血管が詰まって脳組織が壊死する脳梗塞と、脳の血管が破れて出血する脳出血に分けられますが、いずれも発症すると神経細胞がダメージを受けて、手足を上手く動かせなくなったり、感覚が鈍くなったり、上手く話せなくなったりするなど様々な脳の機能に障害が生じます。脳卒中によって失われた脳の機能はリハビリテーションによってある程度回復しますが、このとき脳の中ではシナプスが新たに作られるなどして、失われた脳の機能を代償するための神経修復が起こっていると考えられています。このように、傷ついた脳は自ら修復する能力を持っていますが、脳卒中で生き残った神経細胞がどのようなメカニズムでこのような修復能力を獲得するのかは解明されていませんでした。

そこで、東京科学大学(Science Tokyo) 総合研究院 難治疾患研究所 七田崇教授らの研究チームは、脳損傷後の神経修復において脳内の脂質が担う役割を明らかにするために、特に、神経修復の引き金となる脂質を探索し、脂質代謝によってどのように神経が修復されるのか、そのメカニズムを調べました。

アミン(左側)をトリフェニルホスホニウム(TPP)(右側)に置き換えて作られたmRNA輸送体は、標的細胞までしっかり届く

ここが重要

彼らの解析によれば、脳梗塞の周辺部に生き残っていた神経細胞にはPLA2G2EおよびPADI4が働いていることが分かりました。PLA2G2Eは脳梗塞巣周辺部の神経細胞から放出された酵素で、死んだ神経細胞の細胞膜を材料に不飽和脂肪酸をつくり出していると考えられています。一方、PADI4(シトルリン化酵素)は神経修復で働く遺伝子を活性化させていることがわかりました。そして、PADI4が神経修復を担うプロセスでは、DGLA(ジホモ-ガンマ-リノレン酸と呼ばれる不飽和脂肪酸)やDGLAが反応してつくられる15-HETrE (15-hydroxy eicosatrienoic acid)が関与し、神経修復を促進する働きがあることがわかりました。

今後の展望

一部の脂質は、組織損傷後に炎症を制御することは知られていましたが、炎症制御だけでなく、神経修復においても重要な役割を担っていることが本研究で初めて明らかになりました。これらの脂質は食事による摂取が可能であり、食事で摂取することで脳梗塞や脳出血後の機能障害を回復させる新たな治療法の研究がさらに進むことが期待されています。

研究者のひとこと

脳梗塞や脳卒中などの脳血管疾患は多くの命や幸せな生活を奪う重大な病気です。食事から摂れる脂質が脳細胞の回復を助ける可能性が見えてきたことで、この研究が新たな治療法につながるよう引き続き取り組んでいきたいと思います。

七田崇教授

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