どんな研究?
がんは日本人の2人に1人がかかる病気です。遺伝子が傷つくことで細胞が異常に増殖し、正常な体の機能を維持できなくなります。血液を作る骨髄で血液細胞ががん化した場合、白血病と呼ばれ、さまざまなタイプが報告されています。骨髄球という細胞が白血病になったものを骨髄性白血病、リンパ球が白血病になったものをリンパ性白血病といい、ナチュラルキラー(NK)細胞*用語1が白血病になったものをNK細胞白血病と言います。その中でも、骨髄性とNK細胞性両方の形質を持つ骨髄/NK前駆細胞性急性白血病 (以下、MNKPL)は、1997年に初めて報告された白血病です。MNKPLは、がん細胞が骨髄の外に滲み出すことで他の臓器に転移しやすく、予後が悪いという特徴があり、症例数が少ないことから、原因や、診断の際の判断基準、治療法などが長年謎のままでした。

大学院医歯学総合研究科 発生発達病態学分野の髙木正稔教授らの研究グループは、アンケート調査や、患者の検体(体の組織や血液など)を使った遺伝子解析など複数の実験を行い、MNKPLの実態の把握と発症に関わる遺伝子異常を解明しました。
ここが重要
髙木教授らは、患者の検体を用いて全ゲノムを解析し比較するだけではなく、どのような遺伝子がどの程度発現しているか、遺伝子の働きが抑制されていないか、細胞1つ1つの中で遺伝子の働き方に変化がないか、などさまざまな探索を行い、得られたデータを統合して病気の状態を明らかにしました。このような手法は、マルチオミクス解析と呼ばれています 。解析の結果、MNKPLでは他の白血病タイプとは異なる3つの変化 を特徴としていることがわかりました。
さらに、薬の効き目を評価する試験から、MNKPL細胞に対して、抗がん剤の一種であるL-アスパラギナーゼが有効であることが示されました。実際の臨床症例でも、15例のMNKPL患者 の5年生存率は全体で36.7%である中で、L-アスパラギナーゼの投与を受けた患者は全員生存していました。このことから、L-アスパラギナーゼを併用した治療はMNKPLに対して有用であると考えられます。
今後の展望
今回の研究で、他の白血病タイプと異なる、MNKPLに特有の特徴を見出すことができました。これにより、MNKPLの正確な診断や、適切な治療選択ができるようになると期待されます。
研究者のひとこと
世界的な分類基準もなく、全く研究が行われていなかった希少な病気について原因や、病気の実態、治療法などを明らかにできました。今後、研究が進むことで1人でも多くの患者さんの光につながってほしいと考えています。

用語説明
※ 用語1. ナチュラルキラー(NK)細胞:白血球の一種で、身体の免疫システムにおいて重要な役割を果たす。
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お問い合わせ先
研究支援窓口
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