どんな研究?
再生可能エネルギーへの注目が高まっています。中でも家庭から出された使用済み油や植物性油、動物の脂肪などから作られるバイオディーゼルは、再生が可能で自然の中で分解されやすいため、環境にやさしいエネルギー源として期待されています。一方、バイオディーゼルの生産過程では副産物としてグリセロールという物質が大量に(重量比率10%)生成されます。しかし、その用途が限られているため結果的にグリセロールが余ってしまうことが問題となっていました。
この課題を解決するために、グリセロールを化学反応によって付加価値の高い物質に変換する技術が研究されてきました。今回、物質理工学院 林智広准教授らの研究チームは、化学反応に用いる緩衝液(pHの急激な変化を防ぎ一定に保つ働きをする)の成分を調整することで、グリセロールから複数の付加価値の高い物質を狙い通りに作り分ける技術を開発しました。
ここが重要
グリセロールは3つの水酸基(-OH基)を持つため、酸化という化学反応により三炭素化合物(ジヒドロキシアセトン、グリセルアルデヒド、グリセリン酸など)を作ることは理論上は簡単です。しかし、グリセロールの酸化は反応の条件や触媒の特性に大きく影響されるため、欲しい物質だけを狙って作り出すことが難しいという課題がありました。もし、狙った物質をつくることができれば、供給余剰だったグリセロールを活用することができます。実際、産炭素化合物は化粧品、医薬品、食品添加物として需要が高く、たとえばジヒドロキシアセトンは日焼け止め製品の主成分として使われています。
そこで林准教授らは、ニッケル酸化物(NiOx)触媒を用い、酸化反応に利用する緩衝液のほう酸とグリセロールの比率を変化させ、生成物に与える影響を調べました。その結果、ほう酸/グリセロール比が0.1の場合には、主にグリセルアルデヒドが生成され、1.5の場合には、ジヒドロキシアセトンが主に生成されることがわかりました。緩衝液の比率を変えることで、高付加価値な物質を狙った通りに作り分けることができたのです。
今後の展望
バイオディーゼル生産の副産物として大量に生成されるグリセロールを、需要の高い三炭素化合物に狙い通りに変換し有効に利用することで、バイオディーゼル産業の収益性が高まり、持続可能なエネルギーの利用促進が期待できます。この技術は他の触媒にも応用でき、高付加価値を持つ特定の物質を狙い通りに生成するための触媒設定の新たな指針となるため、より効率的で環境に優しい化学プロセスを実現できます。
研究者のひとこと
将来的にはバイオディーゼル以外のバイオマス資源(エネルギー資源や原料として利用可能な生物資源)利用の可能性も探りながら、新たな分野の開拓をめざします。このような取り組みを通じて持続可能な社会の実現に貢献し、環境保護と経済発展を両立させる技術革新を推進していきます。
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