どんな研究?
ヒト免疫不全ウイルス-1(HIV-1)に感染することで起こる症状をAIDS(エイズ)と呼びます。エイズは体内の免疫機能が低下した状態であり、普段は感染しないような病気に感染する可能性が高まり、重篤化するおそれがあります。近年は抗ウイルス療法の発展により、HIV-1の増殖を抑制し、エイズの発症を食い止めることができるようになりました。しかし、現在の抗ウイルス療法では体の中からHIV-1を完全に消し去ることはできないため、生涯にわたる治療が必要となります。抗ウイルス療法でウイルス量が低く抑えられているときでも、ウイルスの遺伝子が患者の細胞に組み込まれ、眠った状態になっています。そのため、治療を止めると感染細胞が活性化し、ウイルスが増殖してしまうのです。
HIV-1を完全に排除するために、複数の化合物や抗HIV剤を用いた「Shock and Kill(ショック・アンド・キル)」という方法が考えられています。まず、1つ目の化合物で「Shock」を行い、HIV-1を目覚めさせます。これにより、HIV-1に感染した細胞を免疫システムが認識できるようになります。Shockにより再活性化された細胞を免疫システム等により細胞死(「Kill」)へ導くことで、休眠しているウイルスを細胞ごと破壊することができます。しかし、これまで、十分なShock作用をもつ安定的な化合物は発見できていませんでした。
そこで、総合研究院 生体材料工学研究所 メディシナルケミストリー分野の玉村啓和教授らの研究チームは、Shock作用を持つことが知られる「DAG-ラクトン誘導体」の一部の構造を変化させ、より強いShock作用や安定性を持つ化合物を開発しました。

HIV-1潜伏感染再活性化能の概念図
ここが重要
Shock and Kill戦略で活用できる候補物質として有望視されている化合物の10倍強いShock作用を持つ新しいDAG-ラクトン誘導体を開発しました。この化合物は、健康な細胞に大きな毒性を及ぼすことなく、HIV-1の遺伝子を十分に活性化できることが証明されました。
今後の展望
今回合成した化合物を更に改良することで、より強いShock機能をもつ化合物を作り出せる可能性があります。抗ウイルス剤や他の薬を組み合わせることで、HIVの根絶に向けた治療法開発への応用が期待できます。
研究者のひとこと
近年、抗ウイルス療法の発展によりAIDSの発症は抑えられるようになりましたが、HIV-1を体内から完全に排除することはまだできていません。今回の発見が、HIV-1感染症の根治療法開発に向けた大きな一歩になればと思います。

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